「医学部を語る〜首都圏国公立編〜」イベントレポート(2016年夏実施)

2016年夏、全国各地8つの会場にて、代々木ゼミナール・Y-SAPIX共催セミナー「医学部を語る」を開催しました。

医学部医学科全体の動向や今後の展望を分析した第1部全国編に続き、第2部として、各地の医学部に焦点をあて、近年の入試状況や対策等についてお話ししました。

2016年度入試状況

前期試験

2016年度の首都圏国公立大学の前期入試状況は、以下の通りでした。

2016年度 前期試験 入試結果
大学 募集人員 志願者数 志願
倍率
第1段階選抜
不合格者数
2次試験
受験者数
合格者数 実質
倍率
筑波 63 315 5.0 (5.0倍) 285 73 3.9
千葉 97 356 3.7 56(3.0倍) 289 103 2.8
東京 97 546 5.6 157(4.0倍) 381 98 3.9
東京医科歯科 82 396 4.8 68(4.0倍) 315 91 3.5
横浜市立 85 336 4.0 81(3.0倍) 235 87 2.7
山梨 実施なし

首都圏各大学の医学部医学科では、おおよそ60名から100名弱の人数が、前期入試で募集されています。この数字をどのように感じるかは人それぞれですが、医師を目指す受験生が、この中に入ろうと必死に勉強していることを忘れてはなりません。志願倍率については近年3.0〜5.0倍で安定してきています。

この表の中で注目しておくべき点は、第1段階選抜不合格者数という欄です。多くの大学では第1段階選抜を予告しています。ただし、第1段階選抜は、大学によって事前に提示された志願倍率を超えた場合に実施されるので、志願倍率によっては実施されないこともあります。括弧内の倍率は、大学が定めた第1段階選抜の予告倍率、すなわち実施するか否かのボーダーラインを示しています。

たとえば東京大学では、予告されていた予告倍率は4.0倍でした。しかし志願倍率が5.6倍だったため、第1段階選抜が実施され、2次試験を受験する前に157名の受験生が不合格となりました。また、筑波大学では、2016年度のように実施されない年がたびたびあります。それは、予告倍率を5.0倍と比較的高めに設定をしていることが影響していると考えられます。これとは対照的に、予告倍率が3.0倍の大学では、第1段階選抜を毎年実施する可能性が高いので、来年度以降も行われると考えておいたほうがよいでしょう。

なお、この予告倍率は変更されることもあります。しかし急に変更になることはなく、入試方式の変更は大学から事前に予告されます。まだ受験生ではない方も、気になる大学の入試情報は日頃から確認しておきましょう。

また第1段階選抜をクリアしたからといって、全員が2次試験を受験するわけではありません。志願者数のうち、第1段階選抜不合格者数を差し引いた人数が2次試験を受験できる切符を得るわけですが、2次試験受験者数をみてみると、おおよそ10数名少なくなっています。2次試験を受験しない理由はさまざまでしょうが、私立大学に合格したため国公立大学の受験をとりやめた、2次試験で挽回できる自信がなくなったなどの理由が考えられます。

後期試験

実施する大学自体が減少しつつある後期試験では、少ない募集枠に受験生が集中するため激戦となります。

2016年度 後期試験 入試結果
大学 募集人員 志願者数 志願
倍率
第1段階選抜
不合格者数
2次試験
受験者数
合格者数 実質
倍率
筑波 実施なし
千葉 20 371 18.6 101(7.0倍) 92 20 4.6
東京 実施なし
東京医科歯科 15 202 13.5 110(6.0倍) 27 19 1.4
横浜市立 実施なし
山梨 90 1,214 13.5 313(10.0倍) 391 108 3.6

注意しておかなければならないのは、前期試験と後期試験の出願期間が同じだということです。センター試験の結果もまだ分からない段階で、約10日間という限られた期間に前期試験と後期試験の受験校を決めなければならないため、第1志望校以外の大学についても事前に調べておく必要があります。後期試験では、前期試験と同じく第1段階選抜が実施されることがほとんどですから、その点も注意しましょう。

後期試験は一般的に高倍率になるイメージがありますが、果たしてそうでしょうか。例として東京医科歯科大学の後期試験を見てみましょう。2016年度入試では、15名という募集人員に対し、志願者数は202名に上りました。第1段階選抜の結果、110名が不合格になり、2次試験に進める志願者は92名まで減ります。ところが実際に2次試験を受験したのは27名で、19名が合格したため実質倍率は1.4倍という低倍率になっています。第1段階選抜通過の92名のうち約3割しか2次試験を受けていませんが、残りの7割はどこに行ったのでしょうか。

第一に考えられるのは、前期試験で合格したケースです。東京医科歯科大学後期試験の第1段階選抜を通過できるということは、センター試験でかなりの高得点が取れたということになります。従って、前期試験に合格できる可能性も高いと考えられます。また、私立大医学部に合格して受験を辞退したケースもあるでしょう。このようなことは、千葉大学や山梨大学にも見られます。一般的に後期試験においては、志願倍率は高くても、第1段階選抜を通過すれば競争率は前期試験並みになることを頭に入れておいてください。

なお山梨大学は少々特殊で、後期試験のみの実施です。後期試験では、基本的に前期試験よりも課す科目が少ない大学が多いのですが、山梨大学では後期試験しか設置されていないため、前期試験並みの学科試験が行われます。

推薦・AO入試

実施大学も募集人員も減少してきた後期試験とは対照的に、近年は推薦・AO入試を取り入れている大学が増加しています。

2016年度 推薦・AO入試結果
大学 募集枠 募集人員 志願者数 志願
倍率
合格者数 競争率
筑波 一般推薦 36 200 5.6 37 5.4
地域枠推薦 22 77 3.5 20 3.9
千葉 実施なし
東京 推薦 3程度 9 3.0 2 4.5
東京医科歯科 地域特別枠推薦 茨城県枠 2以内 6 3.0 2 3.0
長野県枠 2以内 10 5.0 2 5.0
横浜市立 特別推薦
(地域医療枠)
5 20 4.0 5 4.0
山梨 地域枠推薦 35以内 96 2.7 35 2.7

募集人員は、大学により様々です。東京医科歯科大学の地域特別枠推薦入試では、茨城県枠として2名以内、長野県枠として2名以内の募集がありました。入学定員の101名に対して、非常に少ない募集人員です。対して筑波大学では、一般推薦36名、地域枠推薦22名の計58名を募集しました。入学定員は135名です。推薦入試が全体の募集人数の4割以上を占めており、筑波大学が推薦入試を重視していることを示しています。

推薦入試において注目すべきことは、募集人員だけではありません。それは、志願者数です。2016年度の筑波大学の入試結果では、一般推薦の募集人員36名に対して、志願者数は200名でした。倍率にすると、約5.6倍です。地域枠推薦では、定員22名に対して志願者数は77名、志願倍率は3.5倍でした。また、東京医科歯科大学では、地域特別枠推薦入試の茨城県枠に6名、長野県枠に10名が志願しました。極めて少ない募集人員ですが、志願者自体も少なく、競争率は高くないことが分かります。

募集人員は大学ごとにばらつきがありますが、競争率をみてみると、前期試験より少し高いくらいで、大きな差はありません。特に第1志望校で推薦・AO入試が実施されているのであれば、募集人員の少なさに気後れせず、受験を考えてみましょう。ただし、一般入試対策の勉強と並行して面接や小論文の対策をしなければならないため、遅くても高3生になる頃には推薦・AO入試についての情報を集め始める必要があります。

医学部は、他学部に比べて多くの浪人生が受験します。現役生が高校3年間の後半で学習する数Ⅲや理科を、浪人生はしっかりと勉強して受験に挑むことができるため、医学部受験において浪人生は強力なライバルです。

ところが、推薦入試では、それぞれの大学から様々な条件が課せられており、その条件の中には「現役生のみ」と指定されていることがあります。現役生だけが受験できるというのはそれだけでも大きな利点になるので、推薦入試も医学部に合格するための貴重なチャンスであると考えておきましょう。