医学部6年間の学びとカリキュラム

医学部医学科での6年間の学びについて、各大学で進行するカリキュラム改革など、最新の事例も踏まえて見ていきましょう。

モデル・コア・カリキュラムが各大学の基本形

医学部カリキュラムの基本形となっているのは、文部科学省策定の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」とよばれるものです。

医学教育モデル・コア・カリキュラム

医学生が卒業時までに身に付けておくべき、必須の実践的診療能力(知識・技能・態度)に関する学修目標等を示したもの。全283ページ。

参考:文部科学省ホームページ
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/116/toushin/mext_01280.html

医学教育モデル・コア・カリキュラムは、各大学が策定するカリキュラムのうち、全大学で共通して取り組むべき「コア」の部分を抽出し、「モデル」として体系的に整理したものです。多様なニーズに対応できる医師の養成を目指し、これまでに3度改訂を重ね、令和4年度改訂版が最新となっています。

文部科学省 医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)概要

モデル・コア・カリキュラムには、学生が卒業時までに身に付けておくべき、必須の実践的診療能力(知識・技能・態度)についての「ねらい」と「学修目標」が明確化されています。また、ほとんどの大学で5年生から開始される臨床実習に関し、実習前に習得しておくレベルの内容と実習修了時に求められるレベルも確認できます。

すべての医学部はモデル・コア・カリキュラムに基づいた教育を行うことになっており、学修時間数の3分の2程度をモデル・コア・カリキュラムから、残りの3分の1程度は大学独自のカリキュラムを編成することになっています。したがって、各大学のカリキュラムは、大枠としてモデル・コア・カリキュラムを踏まえつつ、それぞれの理念や指導方針によりタイムテーブルや詳細は異なっています。

医学部入学から卒業までの流れ(例)

1~2年次
  • 教養科目
  • 基礎医学
  • 早期体験実習
3~4年次
  • 臨床医学
  • 社会医学
  • 共用試験(CBT・OSCE)
5~6年次
  • 臨床実習(診療参加型が主流)
  • 卒業試験
  • Post-CC OSCE
  • 医師国家試験
卒業後
マッチングされた病院等で2年以上の臨床研修

1~2年次

基礎医学は1年からスタート。教養科目は他学部・大学と合同も

医学部入学後は、まず教養科目を中心に履修することになります。文系分野・理系分野にわたってさまざまな科目を履修します。

千葉大や順天堂大などでは、教養科目を他学部の学生と一緒に学ぶことになっており、医学部以外の学生との交流や人脈を広める貴重な機会にもなっています。兵庫医科大のように一般教養科目を週1回は別の大学で受講するケースもあります。

また、1・2年次を通して病理学、生理学をはじめとする基礎医学を学びます。ここで学ぶのは人体が病気になる前の通常の状態をまず知ることです。授業では覚えなければならないことが多く、試験前は大変だという学生の声も聞かれますが、この後、臨床医学を学ぶ医学部生にとって非常に重要な講義となっています。

早期体験実習や問題解決型学習(PBL)の導入

座学に加えて早期体験実習も行われます。これは入学後の早い段階で、医学を本格的に学ぶ前に、医療や医学の現場を体験してもらうものです。これには学習意欲の向上や医師への動機付けを行うという目的があります。また、多くの大学では、問題解決能力の育成をはかるため、学生主体となって与えられた課題に対し討論・検証を行う「PBLチュートリアル」という学習方式を取り入れています。

※PBL(Problem Based Learning)…… 課題解決型学習。ここでは患者の症状から疾病を検討する実際の臨床現場に即した学習方法のこと

3~4年次

研究室で基礎研究に没頭できる!特色あるカリキュラム

3・4年生になると、内科学や外科学などの臨床医学(講義・実習)、公衆衛生学や法医学などの社会医学を学んでいきます。一方で、医療が日々進歩するには臨床現場と研究の緊密な連携が必要不可欠だとして、学部生のうちから研究に触れるカリキュラムを組んでいる大学もあります。

東京医科歯科大では、4年次に自分が選んだ研究室に所属し、研究に専念できるプロジェクト・セメスターという期間が設けられています。生物学的現象を探求する基礎研究を行ったり、疾患の疫学やあらたな治療法探索を行ったりと、自分の興味のある内容を研究することができます。

日本医科大では、3年次に研究配属があり、学内だけではなく、提携している東京理科大や早稲田大の研究室に所属できる、というユニークな取り組みがなされています。

共用試験はCBT&OSCEの2種類で構成

5年生から始まる臨床実習に参加するには、共用試験と呼ばれるものに合格する必要があります。医師になるためには避けられない関門の一つです。

共用試験は通常4年次に実施されますが、実施時期は大学によって若干異なります。試験はモデル・コア・カリキュラムに基づき出題され、CBT(シービーティー)とOSCE(オスキー)の2つから構成されています。CBTはコンピュータを用いて知識を測る客観試験、OSCEは模擬患者を対象として技能・態度が評価される客観的臨床能力試験となっています。

5~6年次

5年生から始まる臨床実習は診療参加型が主に

5・6年次を中心に行われる臨床実習では、大学病院や総合病院の各診療科をまわりながら、基本的な診療手技等を修得します。千葉大や日本医科大など、大学によっては4年次の後半から行われるケースもあります。

従来は見学型臨床実習が主でしたが、最近は診療参加型臨床実習が中心となっています。診療参加型臨床実習とは、学生が医療チームの一員となって研修医や指導医とともに診療にあたり、その過程で臨床医学を学ぶものです。患者から話を聞き自分で診察をして、診断や治療を考える機会が設けられます。臨床に直接参加することによって、学生時代から臨床推論(診断や治療を考えること)の訓練をすることにつながります。

慶應義塾大の場合、6年次2学期までの期間、2クールにわたり臨床実習が行われます。6~7名の小グループに分かれて各科をまわり、特に第2クールでは、医学部の教育関連病院に4週間滞在し、大学病院とは異なる環境の中で地域医療などについて学びます。

2023年医師国家試験の合格率は91.6%

臨床実習後、現場で学んだ成果を発揮し、卒業後に臨む臨床研修のために十分な知識・技能・態度が備わっているかどうかを評価されるのがPost-CC OSCEです。6年次の卒業試験もほとんど同時並行で実施されます。どちらも卒業するには避けて通れない道ですが、大学によっては、それまでの学内成績が優秀であれば卒業試験が免除される場合もあるようです。

そして2月に実施される医師国家試験に合格すると、晴れて医師免許取得となります。医師国家試験では、臨床上必要な医学および公衆衛生に関して、医師として具有すべき知識および技能が問われます。

なお、2023年2月に実施された第117回医師国家試験の受験者数は10,293名で、合格者数は9,432名、合格率は91.6%となっています。新卒の合格率は94.9%で、在学中の厳しい実習やいくつもの試験をくぐり抜けてきたことが、合格率の高さに繋がっていると言えるでしょう。

卒業後

卒業後2年間の臨床研修で基本的診療能力を磨く

医師臨床研修制度は、厚生労働省が定める研修制度で、医学部医学科を卒業した後、診療に従事しようとする医師が基本的な診療能力を身につけるため、必ず2年以上受けることが義務付けられています。この研修は、臨床研修マッチングというシステムにより、本人と病院の希望を踏まえ、指定された臨床研修病院や大学病院で受けることになります。

近年の医学部教育 —— 国際基準への適合化 ——

現在、日本における医学部教育では、国際認証基準に適合させるためのカリキュラム改革が進められています。

各大学は、世界医学教育連盟(WFME)のグローバルスタンダードに沿った教育を目指す日本医学教育評価機構(JACME)による「医学教育分野別評価基準」に則り、新しいカリキュラムの導入を進めています。「医学教育分野別評価基準」には、たとえば診療参加型臨床実習を効果的に行うために確保する具体的な期間などが示されています。

このようなカリキュラムのグローバル化に伴い、各大学は高学年で行う臨床実習のボリュームを大幅に増加させています。そのため座学を中心とした科目を下の学年に移す、というカリキュラム改編が行われています。

たとえば、慶應義塾大では、従来2年次で履修していた「解剖学」と「発生学」は「解剖・発生学」として1年次で履修することになり、3年次の「病理学総論」と4年次の「病理学各論」もそれぞれ1学年下に移されました。兵庫医科大でも、4年次で実施する共用試験の時期を早める目的で、4年次の授業が一部3年次に移されました。

こうしたカリキュラム変更によって、低学年で履修する科目のボリュームが増加する結果となりました。かつては、医学部に入学した後、しばらくは時間的余裕がありました。新カリキュラムになってから、特に低学年では以前と比べ勉学に取られる時間が増しており、非常に忙しくなっているといえます。

※SAPIX YOZEMI GROUPが刊行中の受験生向け情報冊子「医学部AtoZ(2022年7月発行)」より一部抜粋