株式会社HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役広津 崇亮氏 インタビュー

Special Interview

広津 崇亮 氏

株式会社HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役
広津 崇亮 氏

Hirotsu Takaaki/1972年山口県生まれ。東京大学理学部生物学科卒業、同大学院理学系研究科生物化学専攻修士課程修了後、サントリー株式会社に入社。退社後、東京大学大学院博士課程在学中に線虫の嗅覚に関する論文が英科学誌「Nature」に掲載される。2013年頃から線虫のがんの匂いの嗅ぎ分けに関する研究を開始、2016年に株式会社HIROTSUバイオサイエンスを設立。

» HIROTSUバイオサイエンス公式ホームページ
» N-NOSE(線虫がん検査サービス)

尿一滴でがんのリスクを判定する
画期的な検査システムを開発

生物学者の広津崇亮氏は、線虫という生き物が匂いからがんの有無を識別できることを証明し、自ら起業、「線虫がん検査」の実用化を成功させました。同氏が生物学の世界に入ったきっかけ、成功までの軌跡、受験生へのメッセージなどを聞きました。

数学が苦手で通い始めた塾が
生物学の道に入るきっかけに

私は大学4年生のときから線虫(せんちゅう)という生き物の研究をしてきました。線虫の体長はわずか1ミリ。視覚はありませんが、大変優れた嗅覚を持っています。

私はこの線虫にがんの匂いを嗅ぎ分けることができる能力があることを発見しました。そこで線虫を使ったがん検査の実用化をめざし、2016年、現在の会社をスタートさせました。

2020年には線虫を使ったがんの一次スクリーニング検査を「N-NOSE(エヌノーズ)」と名付け、一般向けに販売し始めました。検査キットを使って尿を採り、提出すると、約4週間後に結果が出るというシステムです(2023年5月現在、15種類のがんのリスクの検出が可能)。

広津 崇亮 氏

がんで命を落とさないためには早期発見・治療が重要です。しかし、日本のがん検診受診率は4~5割程度で、他の先進国と比較してとても低い。その理由として、多忙で検査を受ける時間がないことや、費用の高さが挙げられています。私はこの検診率を上げるためにN-NOSEの普及を目指しています。

こうした研究の話をすると、「子どもの頃から生き物が好きだったんですか?」とよく聞かれます。しかし、そのイメージとは異なり、小学校時代は少年野球に熱中し、甲子園球場に野球観戦に行くのが好きな子どもでした。一方、「周りと同じことをやりたくない」という、あまのじゃくな性格も、この頃から自覚していました。

例えば人から指示されて何かをやることが好きではなく、勉強をする時も自分から机に向かっていました。この習慣が良かったのか、大学受験の勉強はほぼ自学だけでうまくいきました。参考書や問題集なども、自分の学力に合いそうなものを書店で見つくろい、購入していました。

私は中高一貫校の東大寺学園(奈良県)に高校から入りました。中学から高校に上がってきた同級生とは学力の差が大きく、授業の進度も速かったため、ついていけなかったこともあります。そのため数学だけは塾に通いました。

実は高校に入学してしばらくは、数学が大の苦手だったのです。塾での学習の甲斐もあり、わかるようになるとどんどん数学がおもしろくなっていきました。おかげで当初は文系を選択するつもりだったのが、理系となり、さらに、医学部を目指せるまでになりました。

そんな「医学部受験」を意識しながら受験勉強に臨んでいたある日、私の運命を決定づける出来事がありました。通っていた塾の先生が、「これからは生物学の時代だ!」と言ったのです。今でこそ生物学は大変な脚光を浴びていますが、当時はバイオテクノロジーが話題になり始めた程度で、まだ地味な分野でした。

しかし、私は塾の先生が熱く語るミクロの生物学の世界に次第に惹かれていきました。あまのじゃくな性格ですから、「みんなが医師を目指すのだったら、違うことをしてみるのもいいかも」と思ったのかもしれません。