みくりキッズくりにっく 院長本田 真美氏 インタビュー

イルカセラピーの本場で研修
ようやく夢を具現化できた

ただ、小児一般を勉強することができましたが、やっぱりイルカセラピーは学べないわけです。そこで、子どものとき見たドキュメンタリー番組で、イルカセラピーを主導していたドルフィンリサーチセンターのデヴィッド・ネイサンソン博士に手紙を書いたんです。そうしたら、「イルカを食べる国の人とは話したくない」とけんもほろろな返事が来ました。

それでもめげずに何度も手紙を送るうちに、向こうも根負けしたのか「見学に来てもいいよ」と言ってもらえたんです。そこでアメリカ滞在中の3カ月間を研修の単位にしてもらえるよう病院長にお願いして、フロリダに飛び立ったのです。

アメリカに行って、日本との違いを感じたのは、まず動物に対するリスペクトがあるということでした。そして「セラピー」という言葉の重みです。彼らが考える「セラピー」とは、医療の専門家が関わり、分析や評価まで含めて行う活動を指します。

例えば老人ホームにイヌを連れて行って触れ合いを楽しむのは「アクティビティ」であって、セラピーではないんですね。私は医師の国家資格を有しているので、「ドルフィン・アシステッド・セラピー(DAT)」に携わることができました。

驚いたのは、当時、DATを受けている患者の3割が日本人だったということです。そんなこともあって、研修後もアメリカに残って働かないかと誘われたのですが、イルカセラピーを望む患者さんがわざわざ渡米しなければならない日本の状況を変えたくて、帰国することにしました。

研修期間を終え、国立小児病院の小児神経科の研修医になりました。「イルカセラピーをやらせてほしい」と言ったら、日本初のDAT外来が誕生し、心理士と組んで本格的にセラピーの分析・評価に取り組むことが可能になりました。小児精神・神経疾患に対するイルカ介在療法の効果についての論文で、博士号も取得しています。

本田 真美 氏

みくりキッズくりにっく開院
多職種連携で困りごとを解決

国立小児病院に入って5年が過ぎたとき、ふと考えました。日々、医療的ケア児など難病の子どもたちをたくさん診てきて、看取りの医療も少なくない職場です。私の主な仕事は診断をつけることでしたが、あるとき、患者である子どもたちの病院以外の生活については何も知らないな、と思ったんです。

新生児を救うことはできても、その後、医療的ケア児を看続ける生活に疲れてご両親が離婚してしまうケースもあります。治らない病気と向き合うお子さんやご家族のQOLをいかに向上させるか、生まれてきたことの意味を感じるために何ができるのか。そういう、診断の先に関わることをしていないということ、「病気を診ずして病人を診よ」を実践できていないということに、気づいてしまったんです。

もっと子どもの生活の場に入り込みたい。そう痛切に思い、そこから都立の療育センターの立ち上げや、クリニックの雇われ院長などを経て、ようやく私が本当にやりたいことがかたちになったのが2016年、みくりキッズくりにっくの開院でした。

みくりキッズくりにっくは一般小児科のほか、育児サポートプログラム、発達サポート外来、重症心身障害児の日中ショートステイ、ワークショップなどを提供しています。

いちばんの特長は、「多職種連携」です。看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、保育士、幼稚園教諭、音楽療法士など、常勤で60人、非常勤も含めると90人のスタッフが関わり、それぞれの分野の専門家が連携することで、子どもの生活にたくさんの選択肢を提供することができるようにしています。

他院だったら「もう少し様子を見ましょう」と経過観察で済ますようなケースも、それぞれの専門家の視点から具体的なアドバイスをし、ご家族が安心して育児に向き合えるサポートを心がけています。

ここには、他の医療機関のように医師を頂点にしたヒエラルキーはありません。どちらかというと、現場で患者さんといちばん長く接するスタッフを頂点にして、医師はいちばん下にいるイメージです。

私は、てんかんの発作を止めることはできますが、どう抱っこしたら呼吸が楽になるのか、食事がしやすい姿勢を取れるのかを熟知しているのは理学療法士や作業療法士、言語聴覚士なんです。医療現場を俯瞰したとき、医師ができることって少ないんだなと改めて感じています。

日中ショートステイではイルカセラピーを導入しました。これまでに経験したこと、やりたかったことが、このクリニックにすべて集約され、ようやく、「病人を診よ」ができるところまでたどり着いたかなと思っています。

2022年の春には、日本小児診療多職種研究会の理事長にもなりました。2024年には会頭として大会を開きますが、こうした活動を通して医療の可能性を広げていきたいと思っています。

自分の認知特性を知ることは
人生のあらゆる場面で有効

医師として働きながら結婚をし、1年が過ぎた頃のことです。夫は広告代理店に勤めているのですが、ある日、着ていたセーターを見るなり「その服は嫌いだ」と言うんですね。理由を尋ねると、前にケンカしたときに着ていた服だから、嫌な記憶が蘇ると言うんです。

驚きました。私はケンカの内容は覚えていても、そのとき着ていた服などまったく頭に残っていませんでしたから。よくよく聞いてみると、彼はそのとき後ろのテレビにヒトラーの演説シーンが映っていたことも鮮明に記憶していました。まるで写真として記録したかのように情景を映像で覚えているのです。

人は、見たり聞いたりした情報を頭の中で処理して、理解・整理・記憶します。さらにその内容を書いたり話したりして表現します。この一連の方法が、実は人によって大きく異なるということに気づいた出来事でした。この日をきっかけに認知特性についての研究を始めました。

人の認知特性を調べるために作ったのが、「本田40式認知特性テスト」です。結果は視覚優位の「カメラタイプ」「3Dタイプ」、言語優位の「ファンタジータイプ」「辞書タイプ」、聴覚優位の「ラジオタイプ」「サウンドタイプ」の6つに分けました。

» 「本田40式認知特性テスト」について、詳しくはこちら

認知特性を通じて自分の傾向がわかると、最適な思考や処理の仕方を導き出すことができるようになります。例えば、英文を音声で聴いた方が頭に入る人がいれば、文章を読まないと理解しづらいという人もいます。

受験勉強、仕事の選び方、他人とのコミュニケーションなど、人生のあらゆる場面に認知特性は深く影響します。ただし、あくまでも情報処理の好みや特性であり、優劣を測るものではありませんし、環境により特性が変わる可能性もあります。

2022年、本田式認知特性研究所を立ち上げました。ここでは認知特性以外の要素、例えば記憶力や計算力、空間認識力、そしてこだわりの強さや想像力、継続力などを総合的に分析し、個々の特性や能力に合った最適な方法を見つけるための研究と開発を行っています。

私は10歳でイルカに出会ったことから、今に至る道を歩き始めました。やりたいことが具体的であるほど、着実に歩んでいけるのではないかと思います。医師はとても楽しい仕事です。いろいろな専門家と連携しながら、「病人を診よ」を実践する医師が一人でも多く誕生することを願っています。

※本インタビューはSAPIX YOZEMI GROUPが発行している「医学部AtoZ」(2023年5月発刊)に掲載されたものです。