子どもたちからの手紙や
家族の言葉が明日への活力に
子どもたちの成長をずっと見守っているので、お母さんのような目線になっているのかもしれません。患者さんが夜ふかしなどをして、心身への負担を顧みない生活をしていることがわかれば叱りますよ。4、5歳のお子さんと本気で喧嘩することもしばしばあります。自分の病気がどういうもので、どう生活していけばいいのか。それを正しく知ることはとても大切なので、ときには手紙を書いて詳しく説明することもあります。
逆に、子どもたちから手紙をもらうことも多いです。字が書けない子から絵手紙をもらったり、「渡邉先生がいるから、今の私がいます。先生、大好き」と書いてきてくれたり。読んでいると、本当にこの仕事をしていてよかったなと報われます。
人の命を預かる以上、大変な仕事であることは間違いありません。でも、子どもたちが治って元気に家に帰っていく姿を見たり、こういう手紙をもらったり、笑顔が戻ったご家族に感謝の言葉をいただいたりと、大変なこと以上の喜びがあるんです。
子どもは生きようとする力が強いものです。医師は、子どもたちがその力を出せるように、できることを精一杯やるだけです。最終的には自分たちの力で治っていくのだと思っているし、その力を信じています。
一方で、助けられなかった子どもたちの存在があります。命をもって、私たちにいろいろなことを教えてくれた子どもたちです。元気だった頃に交わした会話はいつまでも鮮明で、一生忘れることはないでしょう。夜空を見上げるたびに思い出します。
目が離せない子どもを抱え、
訪問診療を待つ家庭がある
6年前から、月2回、八王子の小児科クリニックの訪問診療のお手伝いをしています。在宅の医療的ケア児に対応するためです。医療的ケア児は、人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアを日常的に必要とします。全国に約2万人いるとされ、目が離せない状態のお子さんを看ている家庭がそれだけあるのです。
10年ほど前までは、小児クリニックで在宅医療をしているところがなく、診療してあげたいお子さんがいても叶わずに力になれなかった後悔がずっとありました。ようやく6年前にご縁を得て、立ち上げに一から参加したんです。
訪問診療では気管切開や胃ろう、褥瘡(じょくそう)の管理などで、外科的処置が必要な場面があります。外科医がいることで、ご家族やスタッフにも心強く思ってもらえるようです。訪問診療は、病院診療とはまた違い、ご家族との信頼関係を築くことがとても重要です。
白衣だと圧迫感があるかなと普段着で行くようにしていますが、「先生と話している時間は、ホッとする」と笑顔になっていただけると、こちらもうれしくなります。ご家族は本当に気が抜けない毎日を送られているので、その心のケアも訪問診療の目的なんです。医療的ケア児は増えており、もっと訪問診療が充実した社会を願ってやみません。
ドラマの監修ではなるべくリアルを意識
こういう現場があると知ってほしい
全国的にみても、現場は小児科医も小児外科医も人材が不足している状況です。小児外科はマニアックな部分があるので、ハードルが高いと敬遠されてしまうようです。大人の外科も経験しないといけないし、5000~1万人に1例くらいの確率でしか遭遇しない疾患にも対応しなければなりません。
今、小児外科医は全国で2000人くらいいるのですが、東京に集中している上に、そもそも数が足りません。私はもっと人員が増えて欲しいと思っています。
そうした中で、医療ドラマの監修は、病気と懸命に戦っている子どもたちがいること、そして向き合う医師がいることを伝えるよい機会になりました。現場を正しく知ってもらいたいので、撮影では可能な限りリアルに近づける監修を意識しています。「生きてさえいてくれれば私たちがなんとかする」と思いながら働いている医師の存在や、子どもの命の尊さを知って、小児外科医を目指してくれる人が増えたら本当にうれしいことです。
この仕事に就いたときからずっと、いい職業だと思う気持ちは変わりません。子どもが好きで、子どもの目線に立って行動できる優しい人ならば、小児外科医として活躍できると思います。私もそんな人と一緒に働いてみたいと感じます。
振り返れば、私の周りにはつねに、自分の生活よりも患者さんを優先する人たちばかりいました。今の時代にそれを押しつけるわけにはいきませんが、それでも、患者さんを救いたいという強い気持ちは持っていてほしいし、そういった気持ちが根底にないと受験を突破しても先が続かないのではないでしょうか。逆に、医師になりたいという信念を持ち続ける限り、いつかはきっとなれる日が来ると思います。
※本インタビューはSAPIX YOZEMI GROUPが発行している「医学部AtoZ」(2023年5月発刊)に掲載されたものです。