Special Interview
株式会社レーマン 代表取締役
メディカルイラストレーター
tokco 氏
酪農学園大学獣医学部を卒業し、獣医師免許を取得。医療関連会社に勤務し、2008年、メディカルイラストレーターとして独立。13年に株式会社レーマンを設立。現在、メディカルイラストレーション技術を学ぶ講座の開発といった後進の育成や、メディカルイラストレーション普及のための啓発活動にも携わっている。
tokco氏が代表取締役を務めるレーマンの公式サイトはこちら
» Medical Visual Design
» 医療・医学系イラスト素材のレーマンストックウェブ
メディカルイラストレーターは医療の発展を支える仕事です
医学論文などに掲載される臓器や血管などの精緻なイラスト。それを手掛けるのがメディカルイラストレーターです。獣医学部を卒業し、メディカルイラストレーターとして活躍するtokco氏に、仕事の内容や今後の展望を聞きました。
動物の解剖書を描きたくて獣医学部を目指す
「メディカルイラストレーター」という職業を知っていますか?ひと言でいえば、論文や医学書などに掲載する、臓器や骨格、血管、神経など医療に特化した絵を描くイラストレーターのことです。
「イラストではなく写真ではダメなの?」と思う人もいるかもしれません。でも、写真の場合は、情報量が多すぎて、情報がかえって伝わりにくいんです。たとえば、血管だけにクローズアップした情報を伝えたいのに、写真だとその他の筋肉や組織も写り込んでしまう。そうした場合は、イラストで必要な部分を抽出したほうがわかりやすいのです。
メディカルイラストレーターは、学会での論文発表のための資料を必要とする医師の方々や、医療機器メーカー、教育機関などからオファーを受けて描くことが多く、医学の発展を陰で支えているという側面があります。患者さんへの説明資料もイラストがあったほうがわかりやすく、それで不安が解消されるということもあるでしょう。日本ではまだ広く知られていない職業ですが、多くの人々の役に立つ素晴らしい仕事だと私は思っています。
私は子どものころから絵を描くのが好きで、特に動物や昆虫などを観察して描くことに惹かれていました。家で飼っていた犬や猫、ときには食卓の焼き魚をじーっと観察して描くこともありました(笑)。実は、祖父が化学者で、精密なイラストが入った外国の本をたくさん持っていたんですね。それらを手に取って目にする機会も多く、ページをめくるうちに、その美しさのとりこになってしまったんです。「サイエンスイラストレーター」という専門的なイラストを描く職業があることを知ったのも、祖父の化学の本のおかげでした。
小学校時代には「将来、美大に進みたい」と漠然と考えていたのですが、車のデザイナーだった父に「絵だけで生きていくのはとても難しい」と聞かされていました。動物が大好きだったので、それなら動物の解剖書や図鑑のイラストを描く人になろうと決意したのが、獣医学部を目指した理由です。
公立高校の理数クラスに進学し、クラスメイトと切磋琢磨していましたが、受験勉強はやはり大変でした。マンガ『動物のお医者さん』が好きで、その舞台である北海道への憧れが強くなり、北海道大学の獣医学部を目指したのですが、落ちてしまって。東京の私大には合格したものの北海道で学ぶ夢をあきらめきれず、一浪して再チャレンジ。結果、北大は不合格でしたが、江別市の酪農学園大学の獣医学部に合格することができました。
酪農学園大学獣医学部の同級生は100人超。その進路の多くは、ペットの獣医、牛や馬など家畜の獣医、人獣共通感染症などを研究する公務員で、イラストを職業にしたいと考えていたのは私だけでした(笑)。それでも、解剖実習などでは観察して絵を描くことに没頭し、この分野で生きていきたいという思いが日に日に強くなっていったのです。
大学時代の出来事で今でも忘れられないのが、1年生のときに経験した酪農実習。道内の酪農家のご自宅に夏休みの1カ月間ホームステイして、エサやりや掃除、搾乳など日常の世話を体験しました。私は、北海道の東の端に位置する姉別(厚岸郡浜中町)の酪農家にお世話になったのですが、卒業後もずっと交流が続き、今でも年に2回程度通っているほどです。
朝早く起き、一日中続く、牛のお世話。今は、機械による自動化が進んでいるのでだいぶ事情は違うと思いますが、当時は一家総出で働かないととても仕事が追いつかないほどでした。生き物相手の仕事なので、休みもないし、旅行もいけない。普段当たり前のように飲んでいる牛乳が、こうやってたくさんの人の労働によって支えられていることをあらためて実感しました。