自由を謳歌した学生時代 水泳にも打ち込んだ
京大と東大はよく比較されますが、その中で「学生の住まいと大学までの通学時間」というグラフを見たことがあります。東大生の通学時間は20~30分台が多いようなのですが、京大生はだいたい数分なんです。入学当時、私は自転車で10分くらいの場所に住んでいたのですが、先輩からは「なぜそんな遠いところに」と言われました(笑)。
京大は中心部から離れたところにあるので、交通のアクセスがよいとは言えず、みんな自転車で動き回っていました。その影響もあり、大学6年間で終電の時間を気にしたことは一度もありません。その分、自由を謳歌できたのが、最大の思い出かもしれません。
出会った人からは、強烈な刺激を受けました。たとえば、教科書をほとんど買わない同級生がいました。本棚に3冊ぐらいしか本を置いていないのです。一回読んだら、ほぼ内容を覚えてしまうので、必要ないということでした。そういう友人と話をすると、物の見方の違いに気づかされます。そういった体験は自分にとって、ものすごくプラスになりましたね。
また、2018年に「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」で、ジェームズ・アリソン先生とノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑先生は、私が入学した当時、医学部の学部長でした。本庶先生の講義を直接聞く機会もあり、今思えばとても贅沢な時間を過ごしたと思います。
それから、水泳にも打ち込みました。水泳は一人でできるスポーツですし、昨日の自分との勝負でしかない。タイムがこれだけ縮まった、というのが客観的数字でクリアに出るので、自分の能力を伸ばすために何をしなくてはいけないのかがわかりやすい。フィードバックの大切さや、正しい方向で努力しないと成長しないということが見えやすい競技なんです。これは学業だけでなく、今の仕事にも生かされていると思うことがあります。
楽しみながら医学の知識を広げよう 志望校選びは背伸びしてもいい
高校では残念ながら、人体について学ぶことはほとんどありません。理科で少し習うくらいですよね。本当は面白いのに、もったいないなと思います。医学部を目指すみなさんには、暗記するだけではないかたちで、楽しみながら医学の知識を広げてもらいたいと思います。
医学は専門性が高いとはいえ、実は入り口部分は誰でも理解できる内容なのです。なぜなら、医学で扱うのは「自分の体」だから。わかりやすく説明されれば、誰でも理解できるものなのです。たとえば『すばらしい人体』(山本健人、ダイヤモンド社)では、「おならは何でできているのか」というような身近な疑問から、「自分の血液型を知る必要はない」といった一般の方は知らない知識まで、幅広く扱いました。こうした医学の知識が少しあるだけで、医学系の小説や記事、医療ドラマなども、もっと楽しめるようになると思いますよ。
そしてぜひ、志望校のキャンパスを見に行ってください。実際に大学の雰囲気がわかると、「ここで学ぶ」というイメージが湧いてくるはずです。そしてそれは、大きなモチベーションになります。
私が京大を志望したのは、当時、再生医療や生体肝移植などで話題になることが多かったからです。新聞にもよく載っていましたし、素人目に見てもその先進性がわかりました。結局、私は京大しか見学に行かなかったので、現役のときも浪人のときも京大しか受けませんでした。まあ、このような受験の仕方は、みなさんにはおすすめしません(笑)。
1年間の浪人生活はつらいものでしたが、卒業して12年経っても、京大に入ってよかったとしみじみと思うことがあります。もちろんそこまで大学にこだわらなくてもやりたいことはできると思いますし、そもそも学歴にこだわる必要もありません。もしこれから受験をするのであれば、ちょっと背伸びをして本当に行きたい大学を志望校にしてみてください。その背伸びが、これからの受験勉強を支えてくれるはずです。
※本インタビューはSAPIX YOZEMI GROUPが発行している「医学部AtoZ」(2022年7月発刊)に掲載されたものです。