「医学部AtoZ」スペシャルインタビュー

石川 陽平 氏

石川 陽平 氏

1987年生まれ。学習院高等科卒業後、東京慈恵会医科大学入学。世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部インターンなどの経験を経て、卒業後は、聖路加国際病院に入職。14年度、聖路加国際病院ベストレジデント。15年に株式会社Mediplat(現メドピアグループ)の設立に参画し、オンライン医療相談サービス「first call」の企画・運営を行う。

救急救命医を選んだ二つの理由とは

こうした海外での経験を経て、帰国後は聖路加国際病院に入職し、救急救命医として働くことにしました。救急救命医を選んだ理由は二つあります。一つは純粋にこの仕事が好きだからです。「目の前の患者を救う」という使命感と、命を助けることができたときの達成感は、なかなか他で味わえるものではありません。

もう一つは、救急に「社会との接点」があると思ったからです。救急は、怪我や病気の種類にかかわらず、外で具合が悪くなった人、全てを診るのが仕事です。つまりここは、病院における社会の接点となっているのです。

私たちは、救急という現場で、社会の変化を肌で感じています。例えば新型コロナウイルスであれば、政府の数字が発表される前に、患者数が増えているのがわかりますし、大きな事故や事件でまず被害者が運び込まれるのは救急です。上司には「ヘリコプターが飛んでいたら気をつけろ」と言われていました。東京上空のヘリコプターは、何らかの事件が起きていることを示唆するからです。

それだけではありません。救急には道に迷って道路でうずくまっていた認知症のおばあちゃんもやって来ますし、虐待で運び込まれる子どももいます。こういった社会的弱者と呼ばれる人たちのSOSを受け取るのも救急なのです。特に私が勤務する聖路加国際病院は、一次救急から三次救急まですべての患者を受け入れるため、私もそうしたケースに立ち会う機会が多くありました。

このような場合、患者さんの治療だけではなく、社会的側面のフォローも必要になります。状況に応じて、ケアワーカーや区役所担当者、病院のソーシャルワーカーにつなげ、同じことが繰り返されないように社会的な補強をするにはどうしたらいいか、という視点も大事になります。

救急医に「瀕死の人を助ける」という印象だけを持っている方も多いかもしれませんが、それだけではないのです。救急という現場を通して、社会の変化の機微を敏感に捉え、解決していく。病院と社会の接点という意味で、救急は私にとって魅力的な場所でした。

また、この時期、救急救命医として新型コロナウイルスの対応に携わったときには、海外で公衆衛生について学んだ知識と人脈が非常に生きました。さらに、コロナに関する院内のマニュアルを中心となって作成しました。聖路加国際病院という大規模病院において、私のような若手が毎日のように院長と話し合い、新しいマニュアルの作成に携わったのです。思いもよらない経験でしたが、とても勉強になったと感じています。

オンライン医療相談サービスfirst callの立ち上げ

救急救命医としての経験を経て、2020年4月からはメドピアという会社の子会社である株式会社first call(ファーストコール)という事業に活動の中心を移しました。6、7割はメドピア、他に産業医の仕事や聖路加国際病院心療内科や一般診療なども担当しています。

first callは2015年にMediplatが立ち上げたサービスで、病気や体調について医師にチャットを通じて直接相談できる「オンライン医療相談」サービスです。病院に行かなくても、オンラインで体の不調や不安を気軽に相談できることから、好評をいただいています。

「数日前から右脇腹が痛いけど大丈夫だろうか」とか「子どもが熱を出したけど、このくらいの熱で病院に行ってもいいのかしら」など、本来ならかかりつけ医にさっと行って相談できればいいのかもしれません。ただ、忙しかったり、かかりつけ医が近くになかったりして、相談できない人も多いのが現状です。そうした人たちに「何かあったときにすぐに気軽に相談できる環境」を作りたいと思って立ち上げに参画しました。

これは、父の病気がきっかけで考えるようになった「予防医療」の一種でもあります。症状が軽い段階で相談できれば、深刻な状態になることを防ぐこともできます。

このアイデアが現実となったのは、「医療×ビジネス系」の勉強会に参加したことがきっかけでした。予防医療をやりたいという気持ちはあっても、現在の国の状況において、税金を投入して病院内でそれをするのには限界があります。なぜなら、予防医療は範囲の見極めが難しく、かえって医療費を増大させることにもつながるからです。

例えば必要以上のがん検診は、かえって過剰な検査や治療を伴い、何もしない場合よりも悪い結果になってしまったり、医療費の増大につながったりする恐れもあるのです。ですから税金の範囲ではなく「経済的に自立した医療サービスを立ち上げよう」と考えていました。

ある日、勉強会の後に開催された飲み会に参加したときのことです。私の目の前に座ったのは、半袖半ズボンのおじさん。「横浜DeNAベイスターズのファンだ」と言うので、「私は広島カープのファンです!」と返して話し始めたら、突然まわりがざわつきだして……。何かと思ったら、その方、春田真さんはDeNAの元会長だったのです。そんなことをまったく知らずに、私はビジネスアイデアだけでなく、広島カープの話までしていたわけです(笑)。

ところがそれが「面白いから、もっと話を聞かせてほしい」ということになり、トントン拍子で一緒に会社をつくることに。人生何が起こるかわからないものです。

これからの時代に求められる医療の形

医療界の将来的な予測として、いい面としては医師の数が増えることです。そうなると、一人ひとりに寄り添ったケアができるようになります。また、これからの時代に求められる医療の形として、少子高齢化が進み、経済が停滞している日本では、医療費をできるだけ抑えて患者さんの人生をプラスに持っていかなくてはなりません。

医者は人を診る仕事です。大学時代に、「病気を診ずして病人を診よ」という大学の理念をたたき込まれてきました。夢に出てくるほど言われ続けたために、当時はうんざりしていたところもあったこの言葉ですが、今は「本当にその通りだ」と思います。「頭がいい」人よりも、むしろ「人が好き」という人のほうが向いており、このフィールドで活躍できるのではないでしょうか。

また、医者はその専門知識を生かしながら、世の中のシステムをつくっていくこともできます。これから医師となるみなさんは、今回のコロナ禍のような世界的困難に立ち向かっていかねばならない場面も数多くあることでしょう。そのためには、病院内だけにとどまらない広い視野が必要です。

学生のうちに海外や地方へ飛び出し、たくさんの人と出会い、さまざまな経験を積み重ねてください。面白そうと思ったらそこへ飛び込み、100がんばらなくてもいいから、10がんばってみる。そういったことの繰り返しが、10年後、20年後のみなさんの人生とこの社会を、劇的に変えていくのです。