医学部の小論文対策

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みなさん、こんにちは。医師になるために医学部合格を目指して日々勉強に励んでいることと思います。英数理の勉強に明け暮れる一方、心のどこかに「小論文どうやって対策しよう」という不安があるなら、そのような不安の解消に少しでも寄与したいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

入試で小論文を課す医学部は?国公立医学部の小論文試験を分析、出題内容をパターンで分類しました。

医学部小論文 大学別内容分析

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出題のねらい

なぜ小論文試験が課されるのだろう、とみなさんも考えたことがあるかもしれません。そのように問われたらどのように答えますか?

医学に関する知識の有無や多寡を問うため、と答える人もいるかもしれません。その問いに対して、本稿は、小論文試験によってはじめて明らかになる能力、ほかの英語や数学や理科という他の教科に還元しきれない能力があり、それを測定・評価するためだ、と答えたいと思います。

では、その能力とは何でしょうか?

それは、言葉でもって、自分の理解したことや考えたことを、相手に伝わるように論理的に示すという能力だと答えましょう。そう聞くと、他教科でも言葉を使って考えたことを論理的に示しているのではないか?と思われるかもしれません。しかし、英語や数学といった教科独自の知識の運用も問われている他教科とは異なり、あくまで言葉を使った思考内容、そしてその表現そのものが、小論文では評価されています。

ここで少しこのページから離れて、いくつかの大学の選抜要綱に目を通してみてください。おおむね、

小論文試験では論理的に思考し、表現する能力を評価する。

というような記載を目にすることかと思います。

論理とは?
論理的な思考とは?

ここでみなさんが気になるのが、「論理」あるいは「論理的な思考」とはどのようなものか?ということではないかと思います。

まず気をつけておきたいのが、小論文における論理とは、数学的な論理とは異なるということです。数学的な論理とは、「AはAである」「AでありかつAでないということはない」「AであるかAでないかのいずれかである」というような、真か偽か(正しいか誤っているか)がはっきりした論理です。

それに対して小論文における論理とは、私たちが日常生活であつかっている論理です。「今日は暑い、だからプールに行くのがよい」「今日は暑い、だから家で過ごすのがよい」というように、まったく同じ理由から異なる結論に至ることが可能であれば、それが示しているように、すべての人が同じ結論に至るとは限らない論理です。そこに主張者の興味関心考え方、広い意味での価値観が反映されてしまうからです。

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一般に小論文では正解のない問いが扱われると言われるのはここに理由があります。ここでもし、日常生活で正解、すなわち誰もが正しいと認めるようなことを言おうとすれば、「2024年6月21日の最高気温は23.3度である」というようなまったくの事実を述べるか、あるいは「家で過ごすか外出するかのどちらかがよい」というような主張のない内容になります。

違う言い方をすると、何かしらの考えを主張しようとするとき、その主張と違う主張をする人がいないとは限らない、ということになります。このとき、そのような主張をすることに意味はあるのか、「正しい」主張でなくてよいのか、疑問に思う人もいるかもしれません。その疑問に対しては、次のように答えておきましょう。

第一に、ある事柄に対してある主張がなされるとき、その主張、そしてそこへいたる道筋に、その主張をなす人の考え方、すなわち思考の筋道が表れています。第二に、その主張にすべての人が同意するわけではないとしても、その主張に筋が通っていることは認められます。小論文で確認されているのはまさにそこです。すなわち、小論文では、答案に書き表された内容から思考の過程をたどり、その過程に筋が通っているかが確認されています。

そして、筋が通っているときとは、おおむね以下の関係が明晰に表されているときです。

  1. 理由と帰結、因果関係
  2. 対比、比較
  3. 具体・抽象、言い換え

文と文、あるいは文章と文章の間にこれらの関係があることを示しているのが、「したがって」「以上より」「一方で」「しかし」「つまり」「このように」といった、いわゆる接続表現というものです。ですから、小論文を書くときは接続表現を使って筋を通すこと、そのために「何を主張したいのか」「その根拠は何か」「具体例として何が挙げられるか」「何と何を比較するか」といった論理関係を意識してほしいと思います。

※ちなみに、このように論理を整理する論者として出口汪や福嶋隆史といった先生方がおいでなので、気になる人はぜひご著作を読んでみてください。

出題形式

大きくは課題文型・英語課題文型・テーマ型の三通りに分かれます。

課題文型 文章があり、それを読んでその内容についての意見を論述する形式です。読解問題(いわゆる国語の問題)が出題されることもあります。
英語
課題文型
上記課題文が英文となっています。読解問題はもちろん、英文法や和訳、時には英訳の問題が出題されることもあります。
テーマ型 「~についてあなたの意見を述べなさい」というように、テーマが出題されます。

他に、一般選抜試験ではあまり見ませんが、総合型選抜や学校推薦型選抜では見られる形式として、総合型と図表型があります。

総合型 理科や数学の問題が出題されます。課題文型の一部として出題されることもありますが、独立した形で出されることもあります。
図表型 図表をもとに考察します。課題文型・テーマ型の一部として出題されることもありますが、課題文(連続型テキスト)、あるいはテーマの代わりに提示されることがあります。

内容やテーマ

多岐にわたります。実際にどのようなテーマで出題されているかについては「大学別内容分析」のページをご覧になってほしいのですが、医学に関するテーマだけではなく、工学や教育、環境についてまで、様々です。

過去数年の問題を通覧すると、新型コロナウイルス感染症が引き起こした問題についてなど、時事に関する文章も出題されています。ぜひ大学HPをはじめとして、過去問に目を通してみてください。

小問パターン

上記「出題形式」で述べたように、英語課題文型には、英語の試験として出題されるような設問もあります。ここではそれ以外の設問に触れたいと思います。

「内容説明」
「理由説明」
いわゆる読解問題、国語的な問題です。本文の一部について、「どういうことか」「なぜか」を説明します。似たようなパターンで「内容把握」がありますが、「内容説明」問題と同様、本文の内容を理解しているか確認しようとしている問題であることに変わりありません。
「具体例提示」 具体例を挙げる問題です。議論に適した例であるかが問われています。的確な具体例を挙げるには、まずは議論が適切に理解できていることが必要です。
「空欄補充」 空欄にふさわしい内容を選択、あるいは記述する問題です。前後の議論より、ふさわしい内容を推定する必要があります。
「意見論述」 いわゆる「小論文」といわれたときに思い浮かべる形だと思います。「~についてあなたの意見を述べよ」という問題です。「反論せよ」というかたちでの出題もあります。

練習方法、対策方法

課題文型にせよテーマ型にせよ、書き方があります。それはどのような?と思うかもしれませんが、これについてはまた別の機会に論じたいと思います。ここでは、書く前の段階の話をします。

一般に、アウトプットよりはインプットのほうが簡単です(もちろん、アウトプットすることでインプットがよりよくできるようになるのですが)。したがって、まずはインプットに相当する現代文の読解が重要です。ここでいう「インプット」とは、現代文でテーマにされている議論の内容そのものに加えて、その議論の展開のあり方です。何が主張されているか、根拠は何か、どのような反論が挙げられているか等々、論理展開、すなわち上述の「筋」の関係を意識しながら、読む練習をしましょう。

※ちなみに、なのですが……「暗記するから学校の定期試験はできるのだけれども、模試では得点できないんです」という相談をよく承ります。差し出がましいようですが、暗記で対応するのはもったいないのでやめた方がよいですよ! せっかくの機会です、論理展開を意識して、自分で問題と解答を作って、国語の先生になったつもりで当該文章についてすべて解説できるようになってください(それができないということは、当該文章の論理展開が理解できてないということです。数時間かけて読んだ文章の論理展開が理解できていないときに、模試の初見の文章の議論の展開を読み解いて解答するのは、やはりむつかしいことだと思いますよ)。

もちろん現代文で「テーマにされている議論の内容」それじたいも重要です。現代文、いわゆる評論文では、現代社会の諸問題が議論されているのですから。ゆえに、もちろん、その内容も身につけていってもらいたいと思います。以上のことから、小論文を書くための練習として現代文の読解は重要ですので、その練習を積んでほしいと思います。

それに加えて、ここでは、ニュースをつかってインプットとアウトプットを行う方法を挙げておきます。ニュースを使うのは面接で「あなたの関心のあるニュースを挙げてください」と聞かれることがあり、また、上述の通り、時事問題について意見を求める問題が出題されることがあるからです。

もちろんみなさんすでにニュースは読んでいると思いますが、眼を通すだけだと忘れていってしまいますので、紙媒体なら切り抜いてスクラップブックを作る、インターネットニュースならアプリを使って記事を集約して管理するなどして、蓄積していきましょう。そして、可能な場合はどんどん感想や意見、似たような事例などを書き込んでいく、少なくともその記事の気になった箇所にマーカーは引く、折に触れて読み返して改めて考えたことや気づいたことを書き留めておく、そういった作業を繰り返し行ってほしいと思います。そうすることで時事問題や医療系の知識と、それについてのあなたの意見というものが育ってきます。

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小論文では上述の通り、思考内容とそれを的確に表す言葉の運用能力が問われ、必ずしも医学に関する知識が問われるものではありませんが、それでも、いやだからこそ、ここ数年話題となっていたり議論の対象となっていたりする事柄 —— トリアージや安楽死、iPS細胞、等々 —— は、一般常識として正確に理解しておきましょう。

一過性のものになりかねなかった情報を自分の血肉に育て上げて、知識と関心のネットワークを太く強くしていってください。

おわりに

いかがでしたでしょうか。小論文試験の対策方法について、多少なりとも何か手掛かりが得られていれば幸いです。

みなさんには苦労するかと思いますが、言葉の運用をストレートに測ろうとする小論文は最もすぐれた形態の試験の一つだと思いますので、時間のかかる地道な、しかも成果の見えにくい取り組みになりますけれども、(他の勉強にも言えることですが)倦まず弛まず、前向きに取り組んでほしいと思います。

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