【前期】志願者数15,973人(+13人) 志願倍率4.5倍(±0)
【後期】志願者数7,063人(-487人) 志願倍率20.1倍(-1.4)
定員規模は現状維持、一般選抜前期が全体の6割
2024年度の医学部医学科入試は国公私立合わせて9,403人、国公立は昨年度から合計3人増員された5,689人という入学定員のもとで実施されました。医学部医学科の入学定員は国の政策によって2008年から継続的に増員されてきましたが、その中には一部期限付きのものが含まれており、国公立大学だけで見ると739人分が2019年度までの期限付きでした。ほとんどの大学では2020年度以降も定員規模を維持しているものの、募集枠・募集人員を減らす大学も一部出てきています。今年度は横浜市立大学のみ昨年度から定員規模を増やしました。
5,689人の中から編入学や入学後の移行枠等を除き、入試方式別に募集人員をまとめたものが下のグラフです。
全体の7割以上を占める3,918人が一般選抜による募集となっています。なかでも前期の募集人員は6割を超えており、医学部合格を目指す受験生にとって最も重視するべき選抜方法であるといえます。
総合型・学校推薦型選抜が募集人員の4分の1以上を占める
一方で、近年拡大が続いているのが総合型・学校推薦型選抜です。2つの選抜を合わせた募集人員は1,528人と4分の1以上を占めており、年々規模が縮小している一般選抜後期を大幅に上回っています。今なお一般選抜が主流とはいえ、数少ない受験機会を逃さないためにも、一般選抜だけでなく総合型・学校推薦型選抜への挑戦も視野に入れるべき状況です。
こうした総合型・学校推薦型選抜において、募集の3分の2以上を占めるのが「地域枠」です。「地域枠」の募集人員は「一般枠」の2倍を超えており、一般選抜とは異なっています。
この「地域枠」は、少子化が進む日本において全体の医師の数は不足してはいないものの、地域や診療科によって医師が足りない「偏在」という課題を解決するため、地域の医師確保等の取組の一つとして設置されたものです。医学部全体の入学定員に関しては今後も引き続き議論が重ねられると見られますが、2010年度以降、地方・地域の医師不足解消を目的としたこの政策が継続されています。
現在も「地域枠」としての募集人員は全体の2割以上を占めていますが、「一般枠」としての募集は徐々に減っていき、「地域枠」や「特定診療科枠」といった卒業後の勤務地に指定があるような枠の募集が増えていく可能性が高いでしょう。その中でも地方の大学であれば、その地域にとどまってくれる優秀な生徒をいち早く確保したいという事情もうかがえ、特に総合型・学校推薦型選抜における「地域枠」はますます拡大するものと考えられます。
前期はわずかに志願者増加、後期は減少するも依然として倍率は20倍超
2024年度前期の志願者数は、昨年度から+13人となる15,973人でした。また、一部の大学が前期の募集人員を減らしており、志願倍率も4.46倍→4.48倍とわずかながら上昇しましました。文科省発表データによれば国公立全体(前期)の志願倍率は2.9倍で、これと比較すると医学部医学科が高倍率であることがわかります。18歳人口が減少する中で、2021年度から志願者の増加傾向が続いていることからも、医学部人気は健在といえます。
後期の志願者数は昨年度まで2年連続で増加していましたが、今年度は7,063人で昨年度から487人(-6.5%)減少しました。とはいえ志願倍率は3年連続で20倍を超えており、国公立全体(後期)の志願倍率10.0倍と比較すると高倍率を維持しています。
第1段階選抜で約7人に1人の不合格
国公立大学には「2段階選抜」を実施する大学があります。これは、各大学の2次試験の出願者から実際に受験できる者を、共通テストの成績等によって所定の人数内に限定するというもので、医学部医学科では全大学が「2段階選抜」の実施を予告しています。
今年の国公立大学医学部医学科(前期)における第1段階選抜不合格者数は2,203人で、昨年度の1,788人よりも大幅に増加しました(未公表の大阪大を除く)。これは国公立全学部(前期)での第1段階選抜不合格者の半数以上を占め、医学部医学科出願者の約7人に1人は前期日程の2次試験を受けられなかったことになります。
前期の49校のうち不合格者が0人だったのは、
[国立]北海道、弘前、秋田、山形、富山、福井、滋賀医科、神戸、島根、岡山、広島、山口、佐賀、宮崎、鹿児島、琉球
[公立]札幌医科、京都府立医科、奈良県立医科
の計19校と、昨年度から2校減りました。一方、不合格者数上位5校は、愛媛(239人)、三重(221人)、長崎(207人)、福島県立医科(189人)、大分(169人)で、この5校だけで全体の半数近くを占める結果となりました。
第1段階選抜は共通テストの得点をもとに行われますが、ほとんどの大学では「志願倍率が○○倍を超えた場合に第1段階選抜を行う」という実施予告であるため、出願状況によって実施の有無や通過できるボーダーラインが変化します。したがって、実施を予告している場合でも不合格者が出ない大学がある一方、前年度実施しなかった大学が実施することもあるため、志望校の入試情報はしっかりとチェックする必要があります。
受験科目を選ぶ際の注意点
国公立大学を第一志望とする医学部受験生は、現状の入試では共通テストで5教科7科目(東京医科歯科・後期のみ地歴公民を除く4教科6科目)が必要ですが、新課程に切り替わる来年度の2025年度入試からは「情報」が全大学で必須となるため、6教科8科目(東京医科歯科・後期のみ5教科7科目)を受験する必要があります。
その中で地歴公民は1科目を選択しますが、できれば負担が重くなるのは避けたいところだと思います。ただし、新課程入試科目の内、必修科目のみで構成されており比較的負担が少ないと考えられる「地理総合、歴史総合、公共」を選択すると、医学部医学科全50校の中で受験できるのは19校に限定されてしまいます。出願校を広く考えるのであれば、「地理総合、地理探究」や「公共、政治・経済」など、選択履修科目を含むものを選択するのが安全でしょう。
国公立大学の科目選択について詳しく知りたい場合は、以下のページへ
https://juken.y-sapix.com/articles/5870.html
新課程入試について知りたい場合は、以下のページへ
https://juken.y-sapix.com/articles/28568.html
2024大学別入試概況
※()内の数字=「指数」:2023年度の志願者数を100とした場合の2024年度志願者数を示す
<前期>
2段階選抜の基準を約3.0倍→約3.5倍に緩和した東北(122)は、志願者が増加しました。募集人員を減らした2020年度以降では最多の志願者数です。結果的に今年度も第1段階選抜が実施される形になりました。
山形(86)は2次試験の科目から国語(現代文)を廃止しました。科目負担は少なくなったことになりますが、募集人員を減らしたことや過去2年やや志願者が多い状態が続いていたこともあり、志願者は減少しました。
信州(117)は募集人員を10人減らしたものの、志願者は増加しました。過去2年志願者が比較的少ない状態が続き、第1段階選抜も実施されていなかったため、その反動の影響とみられます。また、大幅な志願者減となった隣県の岐阜大学から志願者が流入した可能性もあり、志願倍率は5.2倍まで上昇し、第1段階選抜が実施されました。
岐阜(34)は志願者が593人から202人まで大幅に落ち込みました。2段階選抜の基準を約9倍→3倍と非常に厳しく変更し、通過可能人数が500人程度から165人と300人以上の激減となった影響が強かったとみられます。
全大学で最も減少した奈良県立医科(25)は、2次試験の内容を大きく変更し、英語・数学・理科の代わりに小論文を課す形となり、配点についても共通テストが非常に重視されるようになりました。後期ではよくみられる形式ですが、前期では現状、奈良県立医科大学のみです。共通テストの得点や2次対策の難しさを考慮し、敬遠されたと考えられます。
長崎(215)は今年度の募集人員を71人→76人と増やした数少ない大学で、昨年度の反動もあって過去10年で最も多い志願者が集まりました。
<後期>
後期で大きな入試変更が行われたのが山梨です。2次試験に英語を追加し、配点比率も2次重視を強める形に変更されました。もともと後期の中では2次試験の比率が高い大学でしたが、さらに2次試験での逆転を狙いやすくなったことで、英語の負担増にもかかわらず志願者が大幅に増加しました。
鹿児島は2段階選抜の基準を約8倍→約10倍に緩和しましたが、これまでも10倍を超える志願者が集まっており、志願者は小幅な増加にとどまりました。
そのほかに昨年度志願者が少なかった反動で大幅な志願者増がうかがえるのが福井です。一方、旭川医科、浜松医科、宮崎、琉球は逆に大きく志願者を減らしています。
後期の2次試験で学科試験を課す大学は、旭川医科[英、面接]、千葉[英、数、理2、面接]、山梨[英、数、理2、面接]、奈良県立医科[英、数、理2、面接]、宮崎[英、面接]の5校です。それ以外の11校は小論文、面接、調査書などによって実施され、基本的に共通テスト重視の配点となっています。小論文対策なども必要になりますが、まずは共通テストで高得点を取らないと第1段階選抜を通過できず、2次試験を受けられない可能性もあります。
後期を実施する大学は減少が続き、志願倍率(志願者数/募集人員)は後期全体で20倍以上になっています。しかし、実際に受験する人数から算出される実質倍率(受験者数/合格者数)は例年2~5倍程度まで低下します。これは前述の第1段階選抜により受験生が減ることと、前期の合格者や私立大合格者が受験を辞退するためで、後期出願者のうち実際の受験者数は1~3割程度になります。
前期よりも募集人員が少ないとはいえ、国公立大学を志望する受験生にとっては後期も数少ないチャンスの一つです。事前に募集枠をチェックしておき、積極的にチャレンジするようにしましょう。