「国公立大学医学部の入試問題 難易度分類」のページでは、問題の難易度や分量を5段階に分類しました。しかし、物理は理科の1科目でありながら数学的な側面も強い複合的な科目であり、その難易度も単純に一つの尺度で表せるものではありません。そこで、ここでは物理の入試問題の難しさを以下の5要素に分類し、各大学の2020年度の入試問題についてどの要素が強いのかを分析しました。
物理・難易度の5要素 |
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① 物理法則の理解に基づく読解力 |
② 答案の論述力 |
③ 数学的な発想力 |
④ 計算力 |
⑤ 解答速度 |
入試問題に盛り込まれている要素を見ると、大学側がどのような要素を重視して受験生を評価したいか、言い換えれば各大学が期待する入学者の素質が分かります。受験生にとっては志望大学の合否に大きく影響し、重点的に対策すべき要素といえ、また自分の長所を高く評価してくれる大学を探す参考にもなります。
① 物理法則の理解に基づく読解力
教科書の章末問題レベルの問題や易しめと評価される入試問題であれば、問題の設定ごとに用いる公式を覚えることでも対応できます。例えば、単純な衝突の問題は「反発係数の式」と「運動量保存則」により立式するのが典型的な解法です。
しかし、入試レベルの難問では典型から外れた見慣れない設定も多く、立式のときに「運動量保存則」や「力学的エネルギー保存則」などさまざまな物理法則を使い分ける必要があり、パターン頼りの学習法では対処できなくなってきます。それぞれの物理法則の成立条件やその根拠を理解したうえで、どの法則が使えるのかを考えて問題を読み解く力が必要です。
また、京都大学や北海道大学などで出題される長文の穴埋めは、問題文の指示どおりに計算するだけといった方法では対応できません。まずは問題文で述べられる物理的考察を理解することが必要となります。
② 答案の論述力
物理の解答用紙には、結果だけを答えさせる形式と解答の導出過程も含めて説明させる形式があり、説明させる形式では解答欄の広さもさまざまです。東京医科歯科大学や東北大学などでは解答用紙に広めの説明欄が用意されており、式を立てるための物理的考察までも含めてしっかりと説明する力が問われているようです。一方、多くの大学では説明欄があまり広くなく、考察を整理して要点を簡潔に説明する力が必要です。
さらに記号選択などの形式で、結果とともにその根拠を論述させる出題もあります。結果だけ合っていても満点にはならず、論述力を特に問われる問題といえます。
③ 数学的な発想力
物理の入試問題では、立式までの考察で数学的な発想力が必要なことがあります。もともと自然現象の法則性や具体的な現象を数学を用いて表現したものが物理であり、微積分などのように物理での必要性から発展した数学の分野もあります。難問では、現象を数学的に正確に把握することが重要です。さらに、立式後の計算処理で、三角関数、ベクトル、数列などの高校数学の知識が必要となる問題もあります。
④ 計算力
③の数学的な発想力とは別に、煩雑な計算を必要とする問題がよく出題される大学があります。特に解答用紙が結果だけを答えさせる形式の場合は、計算を正しく行って初めて正解となるので厄介です。
物理では問題設定次第で計算結果を簡潔にも煩雑にもすることができます。特に①・②の要素を重視した問題では結果が簡潔な式となるよう設定することが多く、そのような問題ばかりに慣れていると、煩雑な計算を求める問題に困惑することになります。
一方で、物理の計算では解の正当性を検討する手段があります。文字式の次元や数値の大きさの程度を正しく検討しているかどうかでも、物理の力を測ることができます。
⑤ 解答速度
試験時間と問題の分量や難易度を比較すると、解答速度が必要となる大学もあることが分かります。①~④の要素はすべて時間を費やす原因となります。特に解答過程を詳細に論述させる問題や煩雑な計算を伴う問題は思った以上に時間を要します。また信州大・三重大・高知大・鹿児島大では、他学部と問題は共通で試験時間が短く設定され、処理速度が求められます。場合によっては、全問題の難易度や解答にかかる時間を見積もり、どの問題を優先するかといった判断力が必要になる場合もあります。
以下の表は大学ごとに①~⑤のどの要素が強いかを示したもので、●はその大学の対策をするにあたってより必要となる学力です。
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大学 | 年度 | 難易度 | 分量 | 解答時間(科目数) | ① | ② | ③ | ④ | ⑤ |
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北海道 | 2020 | C | C | 150 (2) | ● | ||||
札幌医科 | 2020 | D | C | 120 (2) | ● | ● | |||
東北 | 2020 | C | B | 150 (2) | ● | ● | ● | ||
山形 | 2020 | D | C | 120 (2) | ● | ● | |||
福島県立医科 | 2020 | B | C | 120 (2) | ● | ● | ● | ||
筑波 | 2020 | C | B | 120 (2) | ● | ● | ● | ||
群馬 | 2020 | B | B | 120 (2) | ● | ● | ● | ||
千葉 | 2020 | C | B | 100 (2) | ● | ● | |||
東京 | 2020 | C | A | 150 (2) | ● | ● | ● | ||
東京医科歯科 | 2020 | B | B | 120 (2) | ● | ● | ● | ● | ● |
横浜市立 | 2020 | B | C | 180 (2) | ● | ● | ● | ||
新潟 | 2020 | D | D | 180 (2) | ● | ● | |||
富山 | 2020 | D | D | 180 (2) | ● | ||||
金沢 | 2020 | C | B | 120 (2) | ● | ● | |||
福井 | 2020 | B | C | 120 (2) | ● | ● | |||
信州 | 2020 | D | B | 150 (2) | ● | ||||
岐阜 | 2020 | C | B | 120 (2) | ● | ● | |||
浜松医科 | 2020 | C | B | 120 (2) | ● | ||||
名古屋 | 2020 | A | B | 150 (2) | ● | ● | ● | ||
名古屋市立 | 2020 | B | B | 150 (2) | ● | ● | ● | ● | |
三重 | 2020 | D | B | 150 (2) | ● | ||||
滋賀医科 | 2020 | A | A | 150 (2) | ● | ● | ● | ● | |
京都 | 2020 | A | A | 180 (2) | ● | ● | ● | ● | |
京都府立医科 | 2020 | B | A | 150 (2) | ● | ● | ● | ||
大阪 | 2020 | C | B | 150 (2) | ● | ● | |||
大阪市立 | 2020 | C | C | 150 (2) | ● | ||||
神戸 | 2020 | C | C | 120 (2) | ● | ● | ● | ||
奈良県立医科 | 2020 | C | B | 180(英数理1) | ● | ● | |||
和歌山県立医科 | 2020 | C | B | 120 (2) | ● | ● | |||
鳥取 | 2020 | C | D | 180 (2) | ● | ||||
岡山 | 2020 | D | C | 120 (2) | ● | ||||
広島 | 2020 | D | C | 120 (2) | ● | ||||
山口 | 2020 | D | B | 150 (2) | ● | ● | ● | ||
香川 | 2020 | C | C | 180 (2) | ● | ● | |||
愛媛 | 2020 | D | B | 100 (2) | ● | ● | |||
高知 | 2020 | D | B | 120 (2) | ● | ● | ● | ||
九州 | 2020 | C | B | 150 (2) | ● | ● | |||
佐賀 | 2020 | D | C | 90 (2) | ● | ||||
長崎 | 2020 | D | C | 160 (2) | ● | ||||
熊本 | 2020 | C | C | 120 (2) | ● | ||||
大分 | 2020 | C | B | 120 (2) | ● | ● | ● | ||
鹿児島 | 2020 | D | B | 150 (2) | ● | ● | |||
琉球 | 2020 | E | C | 100 (2) | ● |