株式会社寿技研/KOTOBUKI Medical株式会社 代表取締役 高山 成一郎氏 インタビュー(後編)

Special Interview

高山 成一郎 氏

株式会社寿技研 代表取締役
KOTOBUKI Medical株式会社 代表取締役
高山 成一郎 氏

1968年埼玉県生まれ。室蘭工業大学機械工学科中退。大学在学中に父が倒れて退学、家業である寿技研に入社。以後、自動機製作、金型、機械加工等の現場、設計など幅広く経験を積み、現在の製品開発に生かす。2005年、寿技研代表取締役に就任。18年、寿技研から手術トレーニング用品部門が独立する形で、KOTOBUKI Medicalを法人化。腹腔鏡手術トレーニングBOXをはじめ、コンニャク由来の模擬臓器「VTT」によって知名度を伸ばしている。

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挫折を知らないのではなく、ただ、諦めないだけ

今でも折に触れてお会いする中学時代の恩師に、「高山は挫折を知らない」と言われたことがあります。中学時代の私や、現在の会社の順調な様子を見てそうおっしゃったのかもしれません。しかし、振り返ってみると、決して順風満帆だったわけではありません。

私は父の病気のために、室蘭工業大学を2年のときに中退し、家業を継ぎました。そしてすぐに、資金繰りに奔走することになったのです。「この紙を持って、銀行に行ってこい」と言われ、二十歳の何も知らない若造がお金を借りに行くわけです。「何も聞かれないから大丈夫だ」と父は言うのですが、やはり銀行の融資担当者には仕事内容や今後の計画についていろいろ聞かれるわけです。それはもう大変でした。

その当時は、「なんて親父だ」と頭にもきたのですが、今振り返ってみると、自分の名前とハンコで銀行からお金を借りたことは、商売を学ぶという意味で非常によい経験になったと思います。つまり、銀行から融資を受ける、お客さんから注文をもらう、そういった一つひとつのことにひとごとではないという実感が湧き、「自分で責任をとる」という心構えができたのです。「誰かにやらされているのではなく、自分で約束したことだ」という意識をもつようになったおかげで、その後、何があっても「自分で乗り越える」という強い意志をもてるようになりました。

とはいえ、もちろん大変なこともたくさんありました。社屋が全焼したり、リーマン・ショックで売り上げが激減したり。ただ、挫折してもおかしくないところで踏ん張れたのは、1年目に資金繰りに奔走し、「自分で責任をとる」心構えをもつ経験があったからですね。

このように振り返って考えてみると、私が「挫折を知らない」と言われたのは、失敗したところでやめずに、自分の目標に到達するまでやり続けてきたからではないかと思います。つまり、「諦めなければ挫折はない」わけです。

もちろん、何事もすぐに目標に到達できるわけではありません。到達できるのが1カ月先のこともあれば、5年先のこともあります。しかし、たとえ5年かかったとしても、目標に到達すれば挫折ではないのです。そういう意味で、恩師のおっしゃった「挫折を知らない」という言葉は間違いではないのかなと思います。

大きい視点で判断する。プラスの面もあると気づく

今、私たちは「世界中のお医者さんが、私たちが開発した模擬臓器を使って練習をする世界」の実現を目指しています。しかし、そんな大きな夢が、半年や1年で達成するわけはありません。ですから、目の前で何か失敗したり、うまくいかないことがあったりしても、「未来に向けてそこを改善し、次のステップを踏めばいい」と考えています。そういう大きな気持ちでいるので、くじけるということがないのかもしれません。

これを読まれている医学部志望の受験生の方には、どうしても目先の医学部合格自体が目標になってしまう部分もあると思いますが、そこをあえて「『将来自分は、何を実現したいか』『どんなお医者さんになりたいか』という少し大きな視点で考えてみると、頑張れるのではないでしょうか」とお伝えしたいですね。

また、どんなにつらいことでも、マイナス面ばかりを見るのではなく、プラスの面もあることに気づくのも大切なことだと思います。例えば、2019年末から世界的に流行している新型コロナウイルス感染症についてです。マイナス面ばかりが強調されていますが、よく世の中を見てみるとプラスの面もあることに気づきます。そのプラス面の一つとして、逆説的ではありますが、「むしろ世界は狭くなった」と考えています。

私たちの会社でも、コロナ禍以前は、海外企業と模擬臓器の開発を進めるにあたり、国と国を行き来することが大前提でした。海外から埼玉の工場まで出向いてもらい、私たちも海外に出張して、ということを繰り返していたのです。当時は「会ったときに、具体的な話を詰めましょう」という姿勢でした。

しかし、コロナ禍により直接行き来ができなくなったことで、開発の現場は激変しました。現在では2週間に1回のペースでオンラインミーティングを開き、お互いの場所でどんどん開発を進めていくという体制に変わったのです。そのため、以前に比べると進行がずいぶんと速くなりました。

直接会うことはできなくても、日本にいる人も海外にいる人もオンラインで連絡を取り合って、連携して仕事ができています。英語が話せてコミュニケーションがとれれば、むしろ世界は以前に比べて近くなっている印象です。皆さんも、普段の生活で思い通りにならないことも多いかもしれませんが、見方を変えてみると意外とプラスの側面があることに気がつくかもしれません。

開発の流れ

1. 開発
病院や大学、医療機器メーカーなどから、トレーニングに必要なニーズをしっかり聞き出す。

2. 試作
KOTOBUKI Medicalのもつ設備をフル活用し、コストパフォーマンスも最大限に考慮しながら試作品を製作する。

3. テスト&フィードバック
水分量や厚み、電気メスで扱った際の弾力など、ベストな製品にするためのテストとフィードバックを行う。

4. さらなる研究・開発
テスト結果とフィードバックをもとに、より良い製品を目指してさらなる研究・開発を行う。

VTTが教育現場に浸透すれば、外科医に興味をもつ生徒が増える

皆さんがこれから医学部に進学し、そのなかで「外科に行きたい」と考える人がいたとしても、実際に外科に向いているかというのは、仕事をスタートして、手術を担当してみるまでわからないことも多いと聞きます。しかし、私たちのつくる模擬臓器VTTが教育現場に浸透すれば、もっと多くの学生が早いうちから、将来の職業として「外科医」という選択肢を視野に入れることができるのではないかと考えています。

というのもVTTは、食品のコンニャク由来で安全ですし、使い終わったらそのまま廃棄できるので衛生的で面倒なこともありません。子どもたちが使う教材としても非常に向いているのです。そのため、大学よりも早い段階、例えば中学校や高校の特別学習や部活動のなかでVTTを使って、実際に切ったり縫ったりするといった外科手術の模擬体験をすることができれば、外科医に興味をもつ生徒はもっと増えると思います。

もし、子どもの頃に、「手先が器用だから外科に向いている!」ということがわかったとしたら……。考えるだけで、ワクワクしませんか? そんな機会を、これからは積極的に提供していけたらと思っています。

また、大学の医学部の授業で、学生が模擬臓器を使用して実際の手術にかぎりなく近い体験をすることで、「外科医になったものの手術が苦手」といった事態は防げるはずです。どんなに立派な外科医でも、初めて手術を担当したときにはやはり緊張したという話をよく聞きます。手や足が震えてしまった、という話もめずらしくありません。そんな緊張を和らげるためにも、実際に電気メスを握って、本物さながらの模擬臓器で手術の練習を繰り返すことができれば、若い外科医の心の負担を大きく減らすことができるでしょう。

私は仕事柄、外科医の先生方のお仕事ぶりを身近で見せてもらっているのですが、「お医者さんはすごい!」と感じることが多くあります。例えば、自分が手術を担当した患者さんに対しては、土日も関係なく予後を見ようとする志の高い先生が少なくありません。そういった姿勢に感じ入る一方で、その分、先生方の負荷も多いのではないかと心配になることもあります。

私たちが提供しているトレーニング器具が、若手の先生方の成長に貢献できるような、忙しい先生方の時間を少しでも効率的に生かせるような助けになればと願っています。

医師というのは、本当に素晴らしい職業です。特に、日本の外科の技術は世界のトップレベルにあります。皆さんが近い将来、そんな日本の外科を担う日が来ることを、そして私たちの製品を使ってその腕を上げる日が来ることを、今から楽しみにしています。

電気や超音波など、高温を伴うメスでも利用が可能。鉗子操作や縫合の練習も、人体に近い感触で行うことができる。3Dプリンターを使い、希望の模擬臓器をつくることもできる。

※本インタビューはSAPIX YOZEMI GROUPが発行している「医学部AtoZ」(2021年7月発刊)に掲載されたものです。