2016年度 国公立大学入試状況(一般)
2016年度 国公立大学入試状況(特別選抜)
2016年度 国公立大学入試状況分析
概況
2016年の国公立大学医学部医学科の志願者数(のべ数)は減少した。一般論ではセンター試験の問題が難化して平均点が低下すれば医学科の志願者は減少する。
2016年のセンター試験は、数学ⅠA、物理、化学、英語などが難化した。また、後期日程については実施大学が減少して募集人員も減っているから志願者が減少するのは当然であるとも言える。
しかし今回は、センター試験実施以前に出願をする推薦・AOでも4%ほどの志願者減となっている。
また、上のグラフでわかるように、前期・後期の志願者数は、2012年をピークとして、減少傾向にある。このことから、国公立大学医学科志願者は漸減期に入っているのであり、今回の志願者減少もその傾向のうちにあると言える。
医学科の入学定員は漸増が続いてきた。2016年も国立2大学で合計11人の増員があった。加えて、後期日程廃止により前期の募集人員が増加するケースもあるため、前期日程倍率(志願者÷合格者。上グラフ参照)は5倍を切る水準まで低下した。
前期日程の入試状況
個別大学医学科の志願者数や倍率は、他系統と異なり毎年大きく変動する。
2016年前期日程の志願者動向は「東高西低」と言える。北海道〜中部の24大学を「東」、近畿以西の26大学を「西」とすると、「東」24大学中で志願者減は4大学のみ(札幌医科、東北、福島県立医科、信州)で、18大学が増だった(他に、前年同数が1、前期募集なしが1)。「西」では増加9大学、減少17大学だった。
これは前年の2015年入試の出願傾向が「西高東低」だったことの反動である。
「西」では増減がほぼ同数だったのに対し「東」では4増、18減だった(同数1、募集なし1)。
医学科に限らず前年の倍率・難易度は次年度の出願動向を大きく左右する。難易度が高く、募集枠の小さい、更に志望者が全国的な広範囲で移動する医学科入試は特に前年データに敏感になる。
右図は前期日程の2年分の志願倍率の関係を示したものである。横軸が2015年の倍率、縦軸が2016年の倍率である。
2015年の倍率が4倍以下だった大学は、2016年の倍率は上昇したところが多い(図のⒶ)。
y=x の直線の上方にプロットされている。
下方にプロットされた(倍率低下した)大学は東北大学、大阪大学、九州大学と大都市部の難関医学科である。2015年に4倍を超えた大学では直線の下方にある(倍率低下した)大学が多い。
前年6倍超だった香川大学、高知大学、長崎大学、熊本大学が志願者を大きく減らし倍率低下した(図のⒷ)。
増減の著しい大学
人数でも、率でも、今回最も増加したのは富山大学である(図のⒸ)。
(15年)164人 →(16年)321人と倍近い増え方だった。2015年の志願倍率は2.7倍で、大阪大学とともに全国最下位の倍率だった反動である。大阪大学のような難関大学では反動は起こりにくいが、一般的大学では、低倍率の翌年は要注意である。
逆に最も減少したのは徳島大学である(図のⒹ)。
(15年)588人 →(16年)174人と7割の減である。前年は志願倍率が高く、通過率62%の厳しい2段階選抜が行われた。その反動に加えて、第1段階選抜が、倍率によるだけでなく「センター試験900点中600 点」という基準点も設けられた。さした高い基準ではないが、これもマイナスに働いた。
徳島大学の2次試験(個別試験)には理科がない。医学科の2次試験は、「英、数、理2科目」という型の大学が圧倒的に多い(これを医学科の「スタンダード型」と呼ぼう)が、中には理科1科目や、理科がない大学もある。徳島大学同様の「英、数」型2次試験の大学は2016年入試では他に5大学あった(旭川医科、秋田、鳥取、島根、宮崎)。鳥取大学を除くすべてが志願者増になっているのは、徳島大学の大幅減に連動したものであろう。
選抜方法の変更も大きな変動要因になることはもちろんである。徳島大学に次いで減少数第2位の信州大学(図のⒺ)は選抜方法を3年連続で変更してきた。2次試験の学科試験はかつては数学だけで、「ほんどセンター試験で決まり」という入試だったのが、2014年に英語を追加、翌年は化学を追加、そして2016年は理科を2科目選択として医学科スタンダード型になった。
2015年には2段階選抜が設定されて、実際に第1段階選抜が実施された。2016年は、2次試験科目増と、第1段階選抜回避の2点によって志願者は大きく減り、さらに後期廃止で前期募集人員が増えた(85人→100人)ため倍率は大きく低下した。これが富山大学など周辺の医学科の志願者増加にもつながっていると見られる。
2017年は弘前大学、高知大学で2次試験科目の大きな変更がある。当該大学とその周辺大学の志望者の動向に変化がでてくるだろう。
高倍率が続く大学
それでは図の右上のエリア(図のⒻ)にある、高倍率が続く大学はどういう大学だろうか。これらの医学科には共通した特徴がある。
まずは、第1段階選抜の予告倍率が大きいということ。2段階選抜の設定がないのが、弘前、山口、名古屋市立、浜松医科である。岐阜、奈良県立医科は予告倍率が15倍、広島、旭川医科は10倍、島根は8倍である。岐阜、奈良県立医科は募集人員が少ないのでそれだけでも高倍率になりやすい。
2次試験科目が少ない大学も多い。理科が課されないのが旭川医科、島根。理科が1科目だけなのが奈良県立医科、山口である。
愛媛大学は、2次試験科目は英、数、理2科目のスタンダード型であり、第1段階予告倍率は6倍であるが高倍率が続いているのは、2次試験の配点が大きいからと思われる(センター550点、2次700点)。
2014年入試での合格者のセンター最低点は77%と、一般的に医学科合格の「底」と言われる8割を切ったため2015年に志願者が増えて10倍の志願倍率となった。その2015年合格者のセンター最低点は79%とまだ低めだったため2016年の志願者は微減だった。しかし2016年合格者のセンター最低点は82%に上昇した。2017年は志願者が大きく減る可能性がでてきた。
後期日程の状況
後期日程については毎年の変動が大きい。前期同様の、2015年/2016年の志願倍率の関係図(右図)を見れば、各大学を示す点は前期と異なり、y=x の直線から遠く離れたところに散らばっている。募集人員が少ないので、倍率は毎年変化が大きい。
募集人員の比較的大きい山梨、岐阜、奈良県立医科は倍率変化が小さい。人数として多くの志願者を集めるのは上記3大学と旭川医科である。4大学に共通するのは、2次試験で学科試験を行うこと。広島と愛媛も多くの志願者を集めるが、こちらは2段階選抜を設定していないためである。
冒頭で見たように、後期日程試験の志願者数は減少が続いている。全体としては募集枠が狭まっているから志願者も減っていると言えるのだが、個別の大学、例えば募集人員の大きい山梨、岐阜、奈良県立医科では、募集人員は変わらないのに志願者数の減少が続いている。
後期全体としては後期廃止の大学が相次いだため、2012年間からの5年間で募集人員は17%減ったが、後期志願者総数はこの率を上回る29%減なのである。
前期医学科、後期医学科という受験の仕方が減っているのである。後期は別の系統に出願する、あるいは後期出願を断念するという傾向が続いているようだ。
2016年の後期実質倍率は4.8倍だった。
2017年は大阪大学の後期が廃止される。