諸富徹教授インタビュー

環境税から都市問題へ
時代に合った住み良い都市空間とは

晴れて京都大学の大学院に進学した諸富教授が最初の研究テーマに取り上げたのが環境税である。税金の一種だが、一般的にはあまり耳慣れないかもしれない。

「簡単に言うと、環境を汚した分だけ税金がかかるという仕組みです。たとえば温暖化を促進させる要因となる二酸化炭素やメタンガスなどの排出量と、それらを排出するエネルギー使用量に課税します。すると、企業はなるべく税金を支払いたくないので排出量を減らす行動をとるようになるのです。結果的にこれが環境保全に繋がり、支払われる環境税は環境問題対策の費用に充てられます。環境税にはいくつか種類があり、企業や個人の炭素の排出量に応じて課金されるのが炭素税。森林の維持や保全のために課される森林税や、産業廃棄物の量によって金額が決められる産廃税といったものも。極端な例で言えば、企業に対して“明日から二酸化炭素を排出してはいけません”というように禁止するのは簡単です。しかし、それでは日本経済がストップしてしまう。いっぽう、環境税があれば、企業が生産活動と支払う税金を天秤にかけることになります。有害物質を出す場合は税金を払う、税金を減らしたい場合は排出量を減らすというように、どの程度税金を支払うかに応じて企業自身が判断するのです。このように、一方的に禁止するのではなく、選択する余地を残すことのできる環境税の仕組みはすばらしいと思いました」

新しい税金の研究を続ける傍ら、環境問題と切っても切り離せないところに都市問題があった。大気汚染や水質汚濁を解決するためには産廃物の処理場や下水処理施設などの都市インフラを整備する必要がある。

「環境問題について考えることは、同時に都市の問題を考えることだ、という認識がありました。人口減少により、そもそも人が住み続けること自体も怪しくなってきて、環境の存続以前の問題になりつつあります。人口が少なくなれば住民税や固定資産税の税収が低下し、自治体もまた投資余力を失います。老朽化が進行した都市の立て替えや手入れには莫大な費用が掛かるのに、自治体はそこに投資する財源がない。すると空き家や空き店舗が虫食い状に広がり、都市のスポンジ化現象がどんどん広がってしまうのです。都市のスポンジ化は、決して遠い未来の話ではありません。たとえば、2016年の熊本地震以降、住民が避難したり他県へ移住したりするなどした結果、熊本市内にはたくさんの空き家が残されています。状況は既に深刻化しつつあり、今後の都市づくりをどうしたら良いのかと自治体も頭を抱えている状況です」

このままでは、それほど遠くない将来に破綻する都市が続出することも考えられる。持続可能な都市構造の再構築が大きな施策課題となっているが、その施策として台頭しているのがコンパクトシティだ。

「都市インフラを維持しようとする一方で人口は減っていく。すると、少ない人数で維持コストを賄わなくてはならず一人あたりの負担は大きくなります。効率的で住みよいまちづくりを目指して、都市をコンパクト化するという考え方があります」

既存の都市空間を活かしつつ誰もが住み良い街に再編することで、結果的に固定資産税の税収増につながって自治体がうるおい、ひいては赤字の公共サービスを支える財源も生まれて好循環が望めるという。

諸富教授の研究テーマは、狭い意味での環境問題や、そもそもなぜ税金を納めるのかという問題提起にはじまり、財政や地方都市の問題へと広がりをもっていったが、それらは互いに関連しあっている。核となる趣旨は一貫しているのだ。