諸富徹教授インタビュー

ドイツ留学で出会った環境経済学
帰国後に京都大学大学院へ

日本で環境経済学がより重要な意味を持つようになったのは、地球規模の環境問題に注目が集まったのと同時であった。いっぽうで、1990年代初頭は日本のバブル経済が崩壊し、景気が後退していく最中にあった。そうした社会背景のなか諸富教授は社会全体を広く分析できる経済学に興味を持ち、同志社大学経済学部へ進学した。3年次が終わったときに念願を叶え1年間ドイツに留学。他学生がこぞってアメリカの大学へ留学するのを尻目に、敢えてドイツを選んだ。

「日本では触れる機会の少ないヨーロッパの考え方を学びたいと思いました。また、社会科学の巨人とされるマックス・ウェーバーやカール・マルクスに憧れていたこともあり、彼らの母国の地を訪れたいというのも動機の一つでしたね」

ドイツ留学で一番驚いたのは、環境問題に対する意識の高さだった。今でこそ日本でもゴミの分別が当たり前になったが、ドイツではその当時から徹底されていたようだ。

「特にリサイクルに対する意識が高いと感じました。たとえばスーパーで牛乳を買う場合は家庭から瓶を持参して、サーバーの蛇口からじかに牛乳を入れます。瓶の重さを引いて金額を算出する量り売りの要領で販売されていました。このように、ドイツには、なるべくゴミを出さないように、また、ごみが出る場合もなるべく分別しようという習慣が根付いていて、当時の日本とは環境をめぐる意識が違うな、と思いました。留学先のマインツ大学には、日本ではあまり学ばれていなかった環境経済学の講義もありました。友人から著名な先生の講義だからと強く勧められたのが、受講のきっかけとなりました。

ドイツ留学を通じて、経済成長と環境問題解決の両立を目指すことができると知りました。地球規模の環境問題は長期の取り組みになるだろうと考えていましたし、日本においても経済活動を維持しながら環境を守っていかなくてはなりません。留学前は大学を出たらサラリーマンになるだろうと思っていたのに、そのようなことを考えるうちに研究を続けたいと考えるようになりました。しかし、日本ではまだ環境経済学の講座を持っている大学が非常に少なかった時代。帰国後に同志社大学のゼミの先生に相談したところ、京都大学大学院で教鞭を執られていた環境経済学の第一人者である植田和弘先生(※)を訪ねるのが一番だと教えてもらいました。今思えば、私を快く他大学の大学院へ出してくれた同志社大学の先生には感謝しかありません」

本文脚注
※:植田和弘先生 …… 専門は環境経済学。1975年京都大学工学部卒業、1983年大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻博士課程修了、1997年京都大学大学院経済学研究科教授、2002年より京都大学地球環境学堂教授を兼任、2017年より京都大学名誉教授。