諸富徹教授インタビュー

入学前に知的好奇心を耕し
京都大学の学びでさらに深めてほしい

環境問題と日本経済の望ましい在り方を模索し、研究テーマを広げている諸富教授。前述のように、経済活動を停滞させずに、環境保全と両立させる仕組みづくりとして環境税に活路を見いだしてきた。このように、現状をきちんと分析しながら社会の仕組みを考えられる力がこれからますます求められる時代になるのではないかと話す。

「大学受験で経済学を志望する学生が多いにもかかわらず、“経済学”のイメージは漠然ととらえられがちです。たとえば法学なら法律の勉強を、会計学なら会計士といった将来像が思い描けるのでしょうが、経済学にはそれがない。経済学部としても、これから大学を目指す人に対して、知的探究心をかきたてるような発信をしていく必要があると思っています。私は母校をはじめ大阪の公立高校を中心に、経済学がいかに社会の仕組みや国家政策において重要な役割を果たしているのかを講演会で発信しています。そのメッセージを受け、一人でも多くの学生が経済学を通じて社会に寄与したいと思ってほしいですね」

AIやロボットの台頭から雇用問題が一層深刻になる可能性がある。グローバル規模でみて、貧困格差の問題がどう移り変わっていくかも読めない。社会の実態を調査し、数値で分析しようとする経済学が新たな時代の問題解決を考えるうえで基礎的な学問の一つになりうると説く。厳しい社会を乗り越えられる人材育成を見据えて、京都大学も時代に合った変化を遂げていく必要があるというのが諸富教授の考えだ。

「自由な学風と、学問において多様な考えを共存させる精神は京都大学の誇りです。しかし、これからの社会でますます求められるのは、AIには任せられないような分析力や新しいサービスを生み出す発想力です。このような新しい時代に対応するための基礎的なトレーニングを提供していくのも大学の役割ではないかと。もちろん自由な環境で自発的な問題提起や関心に基づいて勉強できるのは理想ですが、大学として何もしなくて良いというわけではありません。京都大学がグローバルな研究拠点として役割を持つためにも、その良さを活かしながら、時代に合った教育の在り方を私自身も考えていきたいと思っています。

大学生活4年間は、人生においてもっとも大切な時期だと思います。受験勉強はどうしても目の前にあるテストの点数に一喜一憂してしまいますが、なぜ勉強しているのか、を考えることが実は大切です。学ぶことに対する想いが培われていないと、合格するだけが目標になってしまって、入学後にはモチベーションが下がってしまいますよね。若い人には伸びしろがたくさんあるはずなのに、これではもったいない。ですから受験生の皆さんは、ぜひ自分の知的好奇心を耕しておいて、京都大学で何を追究するか、考えを深めておいてほしいです。そしてもし、共に経済学の世界で活躍したいという人に出会えればこんなにうれしいことはありません」