秋田喜代美教授インタビュー

Special Interview

東京大学大学院教育学研究科長/東京大学教育学部学部長 秋田 喜代美 氏

東京大学大学院教育学研究科長
東京大学教育学部学部長
秋田 喜代美 氏

1957年大阪府生まれ。東京大学文学部を卒業後、銀行勤務、専業主婦を経験。その後、東京大学教育学部に学士入学。同大学院教育学研究科博士課程修了。立教大学文学部助教授、東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センターの初代センター長を経て、2020年現在は東京大学大学院教育学研究科長、東京大学教育学部長。専門分野は教職開発。

※本インタビュー記事はSAPIX YOZEMI GROUPが制作している「2020 東京大学京都大学 AtoZ」(2020年10月23日発行)より転載したものです。

2019年、東京大学で女性初の学部長に就任した秋田喜代美氏。大学卒業後、銀行勤務、主婦を経て、教育心理学者への道を選んだという異色のキャリアを持つ。その半生と、東京大学で学ぶ魅力について聞いた。

「入学すること」が目的だった東大
銀行勤務で教育のおもしろさを知る

「女の子は家庭にいるのがいい。無理をしないで短大や専門学校に進学すればいい」という家庭環境で育ちました。ですが、自分では兄と私でそれほど能力の差はないと思っていましたし、親に反発したい気持ちもあって、東京大学文学部に入学しました。

しかし、入るのが大きな目的だったこともあり、入学した途端に落胆しました。今の東京大学は違いますが、当時、教養学部前期課程は大規模な講義ばかりで、私が思い描いていたゼミナールは少なかった。自分が学びたかったのはこんな形ではない、と感じました。1学年約3000人の学生のうち女子は200人ほど。「そのうち3割しか結婚できない」といううわさも耳にして、ならば自分はその3割の「勝ち組」に入ってみたい、と大学に来る目的がおかしなものになってしまったんです。

それからの大学生活は、遊び呆ける毎日でした(苦笑)。大教室の一番後ろで講義中におしゃべりをしていたり、勉強しないでサークル活動に明け暮れたり。後になって思い返すと、たいへん立派な先生の講義も受けていたのに、残念ながら内容は全然覚えていません。体系的にきちんと学問を学ぶこともしませんでした。

大学でやりたいことができなかった、という気持ちで進路に選んだのは、たまたま入社試験に受かった銀行でした。丸の内で「9時―5時」で働く、「華のOL」に憧れていたのです。その当時は女性の総合職採用がまだありませんでした。生意気で怖いもの知らずの私は、内定後の意見交換会で、「男子学生には仕事の内容が書かれた厚いリーフレットが配られているのに、なぜ女子には小さなかわいいリーフレットなのか」と発言しました。たまたまそれが人事部の方の目に留まり、人事部研修課というところに配属されました。「これからは女性ももっと国債や融資を担うべきだ」ということを行員に研修する仕事を任されましたが、研修課のなかでも融資等研修担当の女性は私一人という状況でした。大学では教員免許を取得していたものの、教育にはそれほど関心がなかった私が、研修教材を作るような仕事を通じ、人に教えるためにはどうしたらよいのかを真剣に考えるようになりました。教育専門書も読みあさりながら勉強していくうちに、いつの間にか「教育っておもしろい」と思うようになってきたのです。