高橋良和准教授インタビュー

土木は文明を創り、建築は文化を創る」。でも今、土木が“サブカル”を創っている

大学外の活動のこと一般の人にも「土木」への関心を!とスタートした「どぼくカフェ」

—— 社会への還元を目的とする土木研究者として、専門外の人にも「土木」への関心を深めてもらいたいと、高橋准教授が企画した「どぼくカフェ」。何とも面白そうなこのイベントで、実際に、どんなことが行われているのだろうか。

どぼくカフェの様子

「土木」のスポークスマンを自称する私が、一般の方々にも広く「土木」について知ってもらおうと5年ほど前からはじめたイベント企画が「どぼくカフェ」でした。

「土木」は、本来、目立たなくて当たり前。きれいな水が飲めるのを「ありがたい!」と感じたり、地震があるたびに「建物は大丈夫?」と心配したりする社会は、「土木」にとって決して良いものではありません。そうしたインフラを無意識に享受してもらえる世の中こそ、理想的な世の中です。けれども無意識を通り越して、無関心・無知になったら、それは「土木」に携わるものにとっても、また、社会の人にとっても不幸なことではないでしょうか。意識しなくてもいいけれど、そこはあくまでも教養の一つとして「土木」について知ってもらいたいと思っています。

近年、一般の人々が「土木」という言葉を耳にするのは、負の出来事とセットになっていることが多いんです。例えば、災害で土木インフラが壊れたから不便になったとか、事故があれば土木工事に不備があったとか。新しい道路を建設するといったニュースも、社会のインフラを向上させるというより、何か儲けたいから造るというイメージがあったり。そんな「土木」という言葉につきまとう負のイメージを払拭するため、おもしろいと思えるようなことと合わせて「土木」という言葉を耳にしてもらおうと考えています。

土木好きの人が増え、
このようなグッズも販売されています

心がけているのは、一方的に「土木」の宣伝をするような内容にしないこと。そして、「土木」を知らない一般の人たちにも気付いてもらえるような場所で開催することです。

ここ最近、「どぼくカフェ」では、土木の専門外の人にメインスピーカーとして立っていただいています。ダムが好きな人や道路が好きな人など、いろんな人がいるわけですが、こうした人たちが、意外に専門家も気付かない魅力を見出していたりするものです。一般の人たちも共感しやすいうえに、専門家側も思ってもみなかった視点に気付かされる機会になって、とてもおもしろいですよ。「土木」は本来、目立たないものだとは言いながらも、「よくやったな!」なんて言ってもらえれば、私たちもうれしいですからね。

一番最初に「どぼくカフェ」を開催した場所は、大阪の商店街の真ん中でした。サイエンスカフェのようなスペースがあったので、そこを使いつつ、通りすがりの人たちにも気付いてもらえるよう、道路にも張り出すような形で道路工事用のカラーコーンを並べたんです。今も、大阪アメリカ村にある全面ガラス張りのスペースで開催することが多いですが、場所が場所なので、若い女性たちが「何、あのドボクって?」なんて目を留めてくれることもよくあり、そのたびにガッツポーズをしています。

「どぼくカフェ」でのさまざまな出会いをきっかけに、私自身も今や “国道マニア” になってしまいました。何が魅力かは、ひと言では言えないのですが、道の中でも「国がつくった道」と考えると何だかスペシャルな感じがしませんか?

しかも、その中には国道1号線のような立派な道路もあれば、山の中で車同士がすれ違うのも困難な道路があったりするのです。マニアの間では、こうした国道らしからぬ国道を「酷道」と呼ぶのですが、最初はその意外なおもしろさにハマりました。でも、「何故、こんな道ができてしまったのか?」と調べてみると、やはりそこには歴史に裏打ちされた意図が存在するんですね。多くの人が意識せずに利用している道路に、そうした面白さを見出すのは、まさに “大人の愉しみ” ではないでしょうか。

「土木は文明を創り、建築は文化を創る」という有名な言葉がありますが、今、土木は “サブカル” を創りつつあるのではないか ——。そんな風に思いながら、「土木」の広報活動を続けているところです。