高橋良和准教授インタビュー

未曾有の大震災を経た今、目指すのは“上手く壊す”ための耐震技術

研究のこと耐震、免震からその先へ。「想定外」も視野に研究を進める

—— 阪神・淡路大震災に直面して以降、大きな使命感を持って耐震工学の研究に取り組んでいる高橋准教授。東日本大震災を経た今、耐震工学研究は、どんな方向へと進んでいるのだろうか。

日本の耐震工学の歴史をひもとくと、大きな震災を機に耐震に関する理念が変化しているのがわかります。1923年の関東大震災では、鉄筋コンクリート造の構造物は壊れず、レンガ造や木造が壊れたことから、耐震性に富むのは強く頑丈な “剛構造” だという解釈が生まれ、それに合わせて耐震設計も変化しました。

その後、時代が進んで超高層ビルが建設される時代になると、柳のように揺れるけれど建物自体は壊れない、“柔構造” という考え方が主流になってきました。そして阪神・淡路大震災を機に、この “柔構造” の一つである免震構造が一気に広まったのです。

実際、阪神・淡路大震災以後、耐震基準設計においても今まで0.2Gの地震力を考慮していたものが、2Gを見込んだものへと変更されました。さらに、2011年の東日本大震災。それを機に耐震の世界にも新たな考え方が生まれてしかるべきだと思うのですが、これは現在、構想中・研究中のテーマです。

東日本大震災にあたって、キーワードとなったのは「想定外」という言葉でした。実際、東日本大震災の規模は、それまでの耐震基準設計においては「想定外」のものでした。けれども、研究者にとってはそれは少し誤解のある表現であり、研究レベルにおいては「想定外」の規模の地震も、念頭においたうえで研究を行ってきています。

ただし、構造物のコストや機能性を考慮すると、非常に発生率の低い規模の地震に備えた構造物を造るのは現実的ではありません。つまり、「想定内」の規模の地震では壊れないけれど、「想定外」の地震も発生することを考慮に入れ、その際には “上手く壊すように設計する” ことが、現在の耐震技術です。

また、地震というのは、非常に不確定な要素の多い現象です。どんな想定をしたところで、まったく同じ地震が来ることはありませんから、タイプの違う地震にいちいち敏感に反応する構造物では、いざというときに壊れてしまいます。そこで、想定を超えた地震が発生しても直ちに危機に陥らないという「危機耐性」をふまえて、私が考えているのが “鈍構造” なのです。

例えば橋であれば、支える柱の部分が壊れてしまっては大変なことになります。なので、柱の部分は壊れないように、横張りの部分で地震のエネルギーを吸収していく構造を考えていくわけです。

こうした研究は、一朝一夕に成果が出るものではなく、長年かけて実験データを積み上げていく必要があります。阪神・淡路大震災で免震構造が一気に広まったと言いましたが、これも震災以前からずっと研究されてきていたからこそ、すぐに導入することができたのです。時代を先取りして新しい技術開発をしていくことが、いかに大切か。阪神・淡路大震災では、こうしたことも身にしみて実感しました。