佐藤薫教授インタビュー

東京大学に入学したら、物理の話を気軽に楽しんでできる仲間が大勢いた

私は高校生の頃から、物理が面白いと思っていたため、東京大学理科一類を志望し、進学しました。当時、私のクラスは、女子学生が60人中3人しかいませんでした。女子校から来た私にとって劇的な変化でしたが、当初の心配をよそに、男子学生も含めすごくアットホームな雰囲気の中で大学生活を過ごすことができました。何よりうれしかったのが、物理の話を気軽に楽しんでできる仲間がたくさんいたことです。

また、非常に優秀な学生が多く集まっていたので、多くの刺激を受けました。大学1、2年の教養学部のときには、まだ学科が決まらない状態で友人をつくることになります。これは別の分野の友人ができるチャンスでもあるわけです。幅広く友人をつくり、「いったい自分は何をやりたいのか」ということをじっくり考える時間にもなります。私もこの2年間の間に、「将来どんな仕事につきたいか」という話をよくしました。友人とのそんな会話が、世界の見方を広げてくれたと感じています。

とはいえ、正直な気持ちを言えば、もっと女の子の友達が欲しかった。そのため、サークルは女子と男子どちらも多く在籍している混声合唱団に入りました。そこで他大学の女子学生と知り合い、同性の友人もたくさんつくることができました。

東京大学の理系にもっと女子学生が増えてほしい

「東京大学は最先端の研究を大規模で行うことができる、海外に開かれた場でもあります」と語る佐藤氏

2005年の10月に、教授になるタイミングで東大に戻ることになりました。それから15年以上、東大で教授をしています。

その中で日々感じていることは、「ここには世界的な研究者の方々が教員スタッフとしてそろっている」ということです。学生たちがそういった先生方に刺激を受けているのはもちろんですが、実は私自身も同じです。

他の分野の先生の研究姿勢に共鳴したり、新たな価値観に触れたりすることで、分野という垣根を越えて話ができる、わかり合える方が大勢います。わかってもらえる安心感と、新たな気づきをもらえる刺激とが、いいバランスで存在する場だと感じています。

以前「東大合格者の女子の割合が初めて20%を超えた」とニュースになりました。それ自体は喜ばしいことだと思いますが、しかし「約20%」という数字がこの20年ほど続いているのです。私は新入生の女子学生のための活動も担当しており、2020年度には「女子学生のためのZoomカフェ」を開催しました。女子学生たちが横のつながりをもつための取り組みです。総長にも登場していただき、楽しい時間となりました。

いい意味でも悪い意味でも、東京大学は私が学生だった頃とあまり雰囲気は変わっていません。男子が多く、特に男子校出身の学生が多い。工学、理学系を目指す女子はまだかなり少ないのが現状です。私が学生の頃の理科一類の「定員1092人あたり18人」に比べれば、今の「1108人あたり約100人」というのは、ずいぶん増えた感はありますが、海外の大学の割合はここまで低くありません。少なくとも2割、3割は女性で占められています。

ですから、日本ではまだ伸びる余地があると考えています。女子学生にとっても、切磋琢磨できる同性の友人やライバルが多くいたほうが、もっと能力を伸ばすことができるはずです。女子学生が増え、特別扱いされるようなことがない雰囲気になるのが理想です。

東京大学は最先端の研究を大きな規模でできるところです。そして海外に開かれた場でもあります。ぜひここで、皆さんの将来の夢を、新しい仲間たちと共に紡いでいってもらえればと思います。

PANSY(南極昭和基地大型大気レーダー計画)とは?

南極上空を観測し、地球全体の気候の変化を解明

PANSYの正式名称は、「南極昭和基地大型大気レーダー計画(Program of the Antarctic Syowa MST/IS radar)」。東京大学、国立極地研究所、京都大学の共同研究により世界初の南極大型大気レーダーが設計・設置された。

直径約160mの円形の土地に高さ約3mのアンテナ1045本を配置し、高度1~500kmの3次元風速やプラズマの温度、密度を高精度・高解像度で観測できる。

これにより、地球全体の気候・気象の変動を詳細に把握することが期待されている。

成層圏と中間圏の大気の大循環と気温を示した図
2度目の南極で。第60次南極観測隊の夏隊員として昭和基地に向かい、レーダーの前に立つ佐藤氏

※本インタビューは「2021東京大学京都大学AtoZ」(2021年9月 SAPIX YOZEMI GROUP発行)に掲載されたものです。