東大理科の特徴と傾向分析・学習アドバイス

Ⅱ 学習アドバイス

  1. 理科の選択について
  2. 解答用紙の使い方
  3. 理科に向かう姿勢
  4. 「基本が大事」とは
  5. 問題を「鑑賞」する

理科の選択について

理系の学生にとって高校の理科は、大学進学以降も直接利用する内容の下地となります。そのため、理科の科目選択は、将来の進路に直結する大事な決断となります。慎重に決めなければならない半面、早く決めて早く受験勉強を始めれば、それだけ得点力を鍛えることができます。逆にいえば、好きな科目、興味のある科目を選んで勉強ができるわけです。そして、好きなことや興味のあることの先には、自分に合った将来の道が見つかりやすいでしょう。ただし、「地学」については進学後に数学・物理・化学が必要となります。東大の個別試験では「地学」の問題の中にこれらの要素が多く含まれ、共通テストや他大の傾向と大きく異なります。そのため、対策が困難であることを覚悟しなければなりません。

さて、進路は1つでも、科目は2つ選ばなければなりません。「地学」を除く3科目における組み合わせについて、受験戦略的に見てみましょう。

①物理・化学

最も多い組み合わせです。どちらも数式や数値の処理が多いので、数学が得意な受験生にとっては取り組みやすいでしょう。私立の併願や他の国公立大学の選択を考える際にも、選択肢が広いといえます。従来の東大物理は比較的短い時間で解けたので、化学に時間を割くことができ、じっくり考える時間や見直しの時間を確保しやすい選択だったのですが、近年問題文が長くなり小問が増えたため、あまり余裕はありません。しかも、物理は数学と同様、前の小問が後へつながることが多く、早い段階で計算ミスや勘違いをしたまま進めると、以降の問題で総崩れを起こす危険性が高いため、注意が必要です。

②化学・生物

医学系志望などの生物が好きな人は、関連の深い化学を併せて選択することが多いです。生物は解答に時間がかかるため、その分化学で解くスピードや計算の正確さがより求められます。最近生物の論述が減少傾向にあるので負担は軽くなっているものの、問題文の長さは相変わらずで、時間のやりくりが最も厳しい選択といえます。現実的には理系の中でも数学が苦手という理由で選ぶ場合が多い組み合わせなのですが、そのような後ろ向きな理由で選ぶには負担が大きいように思います。ただ、論説文のような国語が得意で、論述さえ書ければ、余程勘違いしていない限りある程度の部分点が見込めるので、物理のような崩れ方は少ない選択でもあります。慣れれば安定した得点が見込めるようになります。

③物理・生物

生物は一見覚える量が多いように見えますが、単語以外の内容も含めて「覚える量」となると、単語・考え方・計算パターンともそれなりに量のある化学が最も多いといえます。実は化学は理系の中でも苦手な生徒が多い科目です。実際、他科目より一通りの学習に時間がかかりますし、センター試験の最後の6年間の平均点は物理・化学・生物の中で最も低いです。この選択は、数学的な要素の大きい物理と国語的な要素が大きい生物を選ぶため、思考の方向性の振れ幅が大きく、非常に少数派です。しかし、東大であれば個別入試でも国語は課されるので、元々国語的要素は必要です。さらに、満点を狙いやすい物理と、安定して高得点を出しやすい生物のいいとこどりが期待できます。このように、受験だけで見ると意外にお勧めです。ただし、大学進学後、理系なら化学は否が応でも関わることになるので、高校レベルの基礎が無いと非常に苦労します。

解答用紙の使い方

東大の理科の解答用紙は罫線のみです。小問番号も自分で書いて答えるので、解答の場所が人により変わってきます。

・順番がちぐはぐになる。(Bが論述なのでAの横にCの答えが書かれる、など)
・行を空けずに上に詰める。
・図やグラフ、分数が小さくなる。

などにならないよう、まずは採点者に見やすいレイアウトを心がけましょう。

ただし、第1問と第2問は欄が小さいため、注意が必要です。物理や化学では、中央で区切って二分割したり、必要以上に計算過程を書かないなどの工夫が必要です。一方、生物の場合は論述が行数指定なので、分割してはいけません。やむを得ない場合は空けた行を詰めましょう。

論述の行数指定には意味があります。解答欄の上下に点が打ってあります。これは文字数の目安で、1行35字になっています。論述では30~40字で大体内容が1つ収まります。よって、行数で書くべき内容の量がおよそ推測できます。もちろん、字数指定も行数の制限もないので、字数を数えたり、無理に行の中に詰め込んだりする必要はありません。ただ、全体的に小さい字で1行の文字数を増やすのは、内容が合っていて余計な内容が入っていなければ減点はされないと思いますが、本来出題者が意図した分量からずれてしまいます。それなりの分量に収まるよう、練習しておきましょう。

理科に向かう姿勢

東大の「東大」たる所以は、知識の習得を前提とし、それをいかに活用して未知の状況に対処するかが問われるところにあります。この「知識」は単に単語や公式の暗記だけではなくその典型的な使い方、つまり例題の解法も含みます。これらの「知識」は知って解けるのは当然で、これを未知の状況で活用するためには、「知識」の本質部分の理解が必要です。

・この公式はどういう条件がそろえば使えるのか?
・問題から知っている形を抽出できるか?
・この仕組みは他の単元でも当てはまるのではないか?

など、基本的な内容でも様々なことを想定しながら理解していかないと太刀打ちできません。このように、「知識」には各自がどのように触れてきたかという「経験」が付随してきます。例えば、間違えた問題を見直すときに、根本の原因は何だったのかを分析し、他の問題にも通じる一般則、いわば「教訓」のようなものを得られれば、それは大きな「経験値」となるでしょう。

計算なら立式、論述なら書き始めの段階に到達するまでの思考プロセスは答えそのもの以上に大切であり、理科を学習する目的はむしろそこにあります。例えるなら、算数の文章題で、長く難解な問題文と、文章だけではなく図やグラフ、文字式なども「読解」したうえで、立式していくようなものです。計算も文字式という「言語」、英語や国語と同様、思考と意思疎通の道具です。人にこれらの「言語」で解法を説明できるようになれば、採点者に自分の考え方を伝えられるようになるでしょう。

「基本が大事」とは

「基本が大事」「基本をしっかり確実に」という点は東大へ向けての学習でも重要ですが、これは「基本知識をすべて覚えればよい」「基本問題を覚えるまで繰り返し解けば受かる」ということではありません。先に述べた「本質の理解」をするのが目的です。

物理のように原理・原則が少ない科目ほど、深く掘り下げる必要があります。つまり、一つの公式から求まる多様な例題に触れ、その経験を統合して初見の問題に取り組む基本姿勢を体得します。

一方生物では、基本というと大量の単語というイメージがあるかもしれませんが、頭の中で単語が羅列されているようではその先につながりません。複数の単語をつなぎ、一つの概念、つまり物の捉え方として理解していきます。単語のネットワークが体系的な知識を作り、これでようやく次のステップへ進めるのです。

基本を疎かにはできませんが、基本だけでは問題は解けません。人間は忘れる生き物なので、基本を「完成」させることはできません。現役の高校生という限られた時間であればなおさらです。一通り学習したら、以降は復習と演習を同時に進め、抜けている知識を埋めつつ思考力を鍛えていきましょう。

問題を「鑑賞」する

東大の問題は一つ一つが長く、解くのに時間がかかります。しかし、問題文や小問の並びに一連のストーリーがあり、後の問題の誘導やヒントになっていることも少なくありません。この流れは、少ない基本知識から、未知の世界へ誘い、問題解決を試す思考問題としてとても美しいです。そして、問題全体をしっかり味わうと未知の内容について学べたり、思考のプロセスを実感できたり、受験勉強以上の学習効果が現れてきます。

いわゆる「良問」と呼ばれるものは、作題者である大学の先生方が、専門分野以外の単元も調べ、研鑚され、受験生へ向けてメッセージを込めて作成されています。それを堪能できるのは、過去問を「通し」で解き、自己採点し、その内容について調べ学習をして教養を深めたときです。作題者の思いに沿って問題をじっくり味わい、その価値がわかってこそ、東大生として相応しいといえるのではないでしょうか。

様々な大学の過去問に、そのような鑑賞しておきたい「良問」は存在しています。多くの良問に触れ、問題から多くを学ぶことは、受験にとどまらず大学生として「本質を見抜く力」と「深く考える力」を育むことになります。