Ⅱ 学習アドバイス
「わかる」とは何か
東大が発表している「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」では、総合的な国語力の中心となるのは、
1)文章を筋道立てて読みとる読解力
2)それを正しく明確な日本語によって表す表現力
であると説明されています。
一見するとあたりまえのことが書かれているようですが、1)と2)が密接に関連づけられている点が重要です。つまり、読解力と表現力をそれぞれ別々の能力として求めているのではなく、1)で読みとったことを、2)で正確に表現する、すなわち読解と表現をひとつながりのものとしてとらえることが求められているわけです。
これは「わかるとは何か」という問いに対する東大なりの答えであるとも考えられます。通常何事かを理解し、内面でそのことを了解したとき、私たちは「わかった」と言います。しかし、東大はそれでは不十分であり、「自分のわかったことを他人に明確にわからせることができて初めて本当に『わかった』ことになる」と言っているのです。他者への説明ができて初めて本当に「わかった」ことになる。これは東大の求める学力の中核にある考え方と言えるでしょう。
主体的に考え、表現する
東大がどのような基準で問題文を選定しているかということについてもさきほどの「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」で明らかにされています。それによると「論旨明快でありつつ、滋味深い、品格ある文章」が厳選されているとあります。
なぜこのような文章が選ばれるのかを考えてみましょう。東大は高等学校までの学習課程の範囲をこえるような出題をしないことを明言する一方で、「学生が高等学校までの学習によって習得したものを基盤にしつつ、それに留まらず、自己の体験総体を媒介に考えることを求めている」と発表しています。これは与えられた文章をただ受け身で読むのではなく、より主体的に自分の経験に引きつけて読み、考えることが求められていると考えてよいでしょう。本文を部分的に書き写しただけの、いわゆる抜き書き答案を東大が望んでいないことは、この表現からもわかります。
東大は主体的に考え、表現する姿勢をもった受験生を求めているということであり、それは「自らの体験に基づいた主体的な国語の運用能力を重視します」という部分でも明らかです。
選択式の設問では測りがたい能力を身につける
自己の体験総体と言えばそのひとつに読書が挙げられるでしょう。様々なジャンルの本を読み、主体的に考えて人生の糧にしていく、あるいは本の内容について他人と意見を伝え合ったり発展的な学習につなげたりして学びを深めていくのです。
Y-SAPIXにはさまざまな分野の本をまるごと一冊読んで、討議したり小論文を書いたりする「リベラル読解論述研究」という講座があります。東大、そしてその先を意識した授業を通して、選択式の設問では測りがたい能力を身につけていきます。
現代文の学習について
設問の難易度は標準的なものが大半ですが、解答欄2行(1行30字前後と考えて、60〜65字程度が標準的な字数)に説明すべきポイントを凝縮して表現するところに東大特有の難しさがあります。また、第1問の100〜120字での説明問題では、本文全体の論旨を的確に把握することが求められます。細部をないがしろにしない緻密な読み(=ミクロの読み)と、文章全体をながめて大きな流れを理解する読み(=マクロの読み)のバランスをとることが大切です。したがって、①=段落、②=文脈、③=文章全体の構造把握(主題把握)、という流れを日常的な学習を通して身につけましょう。
また、様々なテーマの評論や随筆に幅広く触れ、確かな読解力を培うことも大切です。読みづらい本文、答えをまとめにくい設問に対しても、出題意図を正確につかみ、答えるべきことを簡潔な表現で明快に説明する力を養う必要があります。
古文・漢文の学習について
文章を読解する上で必要な基礎知識を習得するとともに、文章を一語一語丁寧に読解する訓練をしておきましょう。正確な現代語訳をするためには、単語・文法・句形の学習を厳密に行うことが大切です。実際に文章読解を行う際には主語は誰なのかを正確に把握することを心掛けましょう。また、解答を簡潔にまとめる練習も必要になります。それに加えて、文章の背景となる思想や歴史、和歌の修辞などの知識も学んでおきましょう。
現代文同様に、細心の注意を払って文脈を読みとり、簡潔に答案を作成する訓練を怠らないようにしましょう。