Ⅱ 学習アドバイス
東大入試が求める数学力
東大が発表している「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」では、
1)数学的に思考する力
2)数学的に表現する力
3)総合的な数学力
の3つを養うような学習を心がけてほしいとあります。それぞれについて、実際の出題との関連性をみていきます。
まず1)については、現実にありそうな題材を数学に落とし込むことができるかどうかという「数学的に解釈する力」といってもよいでしょう。実際、2012年度の理科第1問は「池に溜まった水を棒でかき出すときに棒が池の水につかる部分の最大値」を数学的に表現したものでしたし、2016年度の文理共通問題は「相撲の巴戦」を題材にした確率の問題でした。このような、実際にありうる状況や現象に基づいた問題が今後も出題されるでしょう。
2)については東大数学の解答形式に表れています。すべての問題は記述式です。ただ答えのみを求めればよいわけではなく、どのような思考過程によって、そのような答えに至ったのかを論理的に説明できるかが要求されています。また、「……であることを示せ」という、いわゆる証明問題も東大数学では頻出です。
最後に3)についてですが、東大数学ではある特定の分野だけの知識で解けるような出題はほとんどありません。高校で学習する様々な数学的な知識を自在に使いこなすこと、それらを関連づけてひとつの問題を解決する力が要求されているのです。
基礎力を固めることが最重要
上記のようなことを東大は要求しているわけですが、無い知識を関連づけることなどできるはずがありません。まずは、知識を正しく理解し、自分のものとすることが何よりも大切です。
教科書において、数学は明確に分野が分かれています。まずは、それぞれの分野における基本事項を当たり前と思えるまでくり返し演習しましょう。そうすることで、例えば「ベクトルという道具はこのようなことが得意で、このようなことには向かない。その代わり三角比では……」というようにそれぞれの道具の特徴が捉えられ、総合的な問題で正しく解法の選択が行えるようになるのです。この際、先にあげた数学的思考力を養うために「式」を「言葉」で解釈してみること、逆に「言葉」を「式」で表現してみることを常に心がけるとよいでしょう。
また、数学的表現力を養うためには正しく数学の用語を使えるようにならなければいけません。各用語の定義、また公式や定理がなぜ成り立つのかをひとつひとつ丁寧に考えていくべきです。意味もわからずに公式やテクニックを用いる訓練に終始するような学習は決して行ってはいけません。
論理的な文章を書く
数学は「論理」によって支えられている学問です。したがって、論理的に間違っている答案や、ごまかしのある答案は見ればすぐわかります。東大数学では大問3題完答すればよい、などの言説をよく耳にしますが、実際の採点に関わった東大の教授によると、満点の答案などほぼない、ということです。すなわち、正しい答えが得られていたとしても細部での議論などで減点を受けているのです。
このような減点を最小限にするためにも、日頃から論理的な文章を書く訓練をしましょう。国語ではきちんとした文章が書けているのに、数学ではメモのような答案になる受験生も少なくありません。まずは「数学の答案は小論文である」くらいの気持ちをもって答案を書く癖をつけることです。そして小論文と同じく、講師など第三者の添削を受けることが大変有効です。
計算を間違えば大減点
意外に見落としがちなのが「計算力」です。これは東大に限ったことではありませんが、せっかく正しく思考でき、表現できていたとしても計算が間違っていれば正しい答えにはたどり着きません。計算力は一朝一夕で身につくものではありません。常に、どうやったら計算を簡単にできるか、などの工夫を考えるようにするとよいでしょう。