株式会社イノカ取締役COO竹内四季氏インタビュー

思いがけない出会いからブルーエコノミーの世界へ

代表の高倉と同窓会で久しぶりに会ったのは、僕が社会人3年目、大学院に進んだ彼が起業して1年目のときです。アクアリウム事業と聞いて、とんでもない会社を作ったな、というのが第一印象でした。「サンゴの水槽を作ってるけど全然売れない」と言っていて、「そりゃニッチ過ぎて絶対に儲からないだろう」と。

そこから「一回見に来て」という話になり、昼休みに会社を訪ねました。小さな水槽が二つあって、「これがサンゴです」「へー」というような会話をしたと記憶しています。ところが話を聞いていくうちに、この事業ってすごく大事なことなのでは、と思うようになったんです。

株式会社イノカは、アクアリストの高倉と、工業高校卒で精密部品の鋳型職人をしていた増田直記が立ち上げた会社です。増田はサンゴを愛してやまず、自宅の巨大水槽でサンゴ礁を飼育しているのですが、それが名だたる水族館にも引けを取らないトップレベルの技術なんですね。その2人がタッグを組んだことで、海中の生態系をそのまま水槽の中で再現することに成功しました。

サンゴ礁には未知のことが多く、がんの治療薬としての可能性も期待されているのですが、いかんせん海中に生息しているので天候や機材コストなどハードルが高く、なかなか研究が進まない。イノカの水槽は、陸にいながら、管理しやすい環境で研究が可能になるわけです。

ちょうどSDGsや自然資本が世界経済のホットワードになっていたタイミングで、そうした文脈でビジネスになるんじゃないかと考え、週1のボランティアで営業顧問に就任しました。半年を経たとき、僕がずっと考えていたソーシャルビジネスがここにあると確信し、会社を辞めてイノカに参画したんです。

今、我々のビジネスは多方面から興味を持たれています。例えば化粧品メーカーもその一つ。日焼け止めの成分が海に溶け出すことで環境にどのような影響があるのか、現時点では「健康な海の状態」を示す指標が存在しないために0か100かの極端な選択を迫られており、彼らは健全な事業を展開するために、適切なエビデンスに基づく指標を求めているのです。

他にも海洋の環境に関わる事業者は数多く存在し、僕は、イノカの水槽から生まれた研究の成果が、一つの指標として国際的なルールになるように未来のビジョンを見ています。

竹内 四季 氏

思えば不思議な成り行きですね。海の生物が大好きなアクアリストと経済学で社会を良くしたい人間が出会って、最先端で世界を変えるようなビジネスが芽吹いているんです。まだ小さな一歩で、100年くらいかけて大樹になるイメージですが、確かな追い風を感じています。

今後、ヒトは海から知恵を得て、海洋環境を守ることでもっと豊かになっていくでしょう。こうしたサステナブルな海洋産業全般をブルーエコノミーと呼びますが、後になって歴史を振り返ったとき、僕が「ブルーエコノミーの父」みたいな存在になっていたら最高ですよね。ノーベル経済学賞を受賞した日本人は、まだいません。本気で目指したいと思っているんですよ。

受験生の皆さんには、ぜひ受験を通過点として、その先で人類の未解決課題に取り組む楽しさを知っていただきたいです。東大に入学していちばん良かったことは、いろんな面ですごいヤツと友人になれたことじゃないかな。志の高い、人が思いつかないようなことをやってのける人に出会えます。今の若者は僕の時代よりさらに面白くて、20歳のインターン生と話していても、もう一度東大に入り直してこういう人と同級生になりたいなあと思うくらい(笑)。皆さんの可能性が羨ましいです。

※本インタビューは「2023東大京大AtoZ」(2023年7月 SAPIX YOZEMI GROUP発行)に掲載されたものです。

企業情報
会社名 株式会社イノカ
設立 2019年
事業内容 環境コンサルティング
教育サービス
AI開発
本社所在地 〒112-0004 東京都文京区後楽二丁目3番21号 住友不動産飯田橋ビル1階
企業ホームページ https://corp.innoqua.jp