岡島礼奈氏インタビュー

世界初、人工流れ星を創るビジネスを起業
研究者とは異なる立場から科学の進化に貢献

大学院は好きな研究を進めていけるので面白かったのですが、途中で、自分は研究者には向いていないと気づきました。私は一点を深く掘り下げていくよりも、いろいろなことを広く知りたかったんです。誰かがすでに掘り下げた結果をたくさん知りたいのであって、自分が第一人者になりたいわけではなかったんですね。

ただ、研究者でなくとも研究に携わることはできます。例えば資金集めです。科学には非常にお金が必要で、研究者は常にお金集めに労力が割かれています。東大は予算があるとお話ししましたが、それでも十分ではありません。そこで、もし資金の流れを作ることができたら、優れた研究者たちはもっと研究に集中できるのではないか。そう考え、博士号を取得した後は、外資系金融会社に就職しました。当時は理系の女性が少なかったので、ここでもまた運良く採用されたという感じです。

ところが1年も経たずにリーマン・ショックに見舞われ、退社を余儀なくされました。人生、いろいろなことがありますね。そうして思いがけず時間ができたとき、やりたいと思ったのが流れ星のことでした。

まだ学部生だった頃、しし座流星群を見に行ったことがあります。科学は、興味のある人にしか届かないのが難点ですが、流れ星はエンターテインメントとして多くの人が楽しむことができます。そのときから、「流れ星」をサイエンスコミュニケーションに活用できないかと考えていました。

2011年に起業したALEは、「科学を社会につなぎ宇宙を文化圏にする」をミッションに掲げ、世界初の人工流れ星の開発と事業化を進めています。人工流れ星には、エンターテインメントとして人々に宇宙の美しさや面白さを届けると同時に、データを取得するという役割があります。大気データを研究者と共有し、気候変動のメカニズム解明などに貢献することを目指しているのです。

より多くの人の好奇心を刺激し、科学への探究や宇宙開発のきっかけを作りたい。私は研究者にはなれなかったけれど、いま宇宙をフィールドに科学の進化に寄与する仕事ができ、とても満足しています。

将来を考えるときには「何になりたいか」より「何をしたいか」で進路を決めるほうが、人生は楽しくなると伝えたいです。例えば医師になろうと思うと医学部を落ちた時点で選択肢がなくなってしまいますが、医療で人を助けることが目的なら、多様なアプローチが生まれます。挫折も糧になり得るのです。

岡島 礼奈 氏

「世界のスタートアップ業界ではPh.D.が常識」と語る岡島氏

科学の世界は魅力的です。国際的に「科学のもとにみな平等」の心意気が浸透していて、私も大いに刺激を受けました。女性が少ない領域なので、女性の方にもぜひ理学部に興味を持ち、できれば博士号を取得してもらいたいと思います。世界のスタートアップ業界ではPh.D.(博士号)がスタンダードですし、いまの時代、何かに打ち込んでいる女性は魅力的ですよ。科学の世界で活躍する女性が増えるのは、私としてもうれしいかぎりです。

企業情報
会社名 株式会社ALE
設立 2011年
事業内容 宇宙エンターテインメント事業(Sky Canvas)
大気データ事業
宇宙デブリ対策事業
本社所在地 〒105-0011 東京都港区芝公園2-10-1 住友不動産芝園ビル7階
企業ホームページ https://star-ale.com/

※本インタビューは「2022東大京大AtoZ」(2022年8月 SAPIX YOZEMI GROUP発行)に掲載されたものです。