粂田昌弘助教インタビュー

自由であれ。自分が面白いと思うことをやれ。
認めてくれる懐の深さが京大の魅力

私の研究は、まだ始まったばかり。将来的な応用についても興味はありますが、まずは生命にとって音とはいったい何なのか、その根源的な関係を解き明かしたいと思っています。さらには、地球ができたときから存在していたはずの音が生命に対してどのような作用を及ぼし、現在のような生物が誕生したのか、そういった研究にまでつなげたいと考えています。

この研究が実を結ぶかどうかはわかりません。でも、京大では「すぐに役立つ知識は、すぐ役に立たなくなる知識」とも言われているんです。どうなるかわからない研究をする中で、ようやくひとつふたつ実を結ぶのが科学の進歩だと思っています。1を10 にすること、あるいは10 を100 にすることももちろん大事ですが、私は「0を1にすること」にチャレンジしたいと考えています。

自分が面白いと思ったことを研究できている私は、恵まれた環境にいると思います。「音と細胞の研究」なんて、おそらく他の大学ではやらせてもらえないでしょう。実際、京大以外の人にこの研究の話をすると、「そんなことやっていて大丈夫ですか?」と言われることもあります(笑)。

大丈夫かどうか、自分でも自信はありません。しかし京大では「そんなことやめなさい」とは誰も言わない。出る杭は打たれないのです。「役に立つ」とか「お金になる」ではなく、「面白い」という本質的なことを認めてくれて、誰もが自由であることが当然だと許容される。そんな懐の深さが京大にはあります。

あまりの自由さに、不安になる人もいるかもしれません。私も最初はそうでした。でも、自分からグイグイ行かなくても、迷ってウロウロしていると、まわりの人から、さまざまなものがポンポン投げかけられてくる。それを受け取っていくうち、面白いと思うものがあれば、そっちに行けばいい。自分の心が動いたときに、その方向に進んでいけば、いつの間にか自分にしかできないことができている。それが京大なのかな、と20年間過ごして思っています。

今の学生たちを見ていると、自分が学生だった頃と比べて自由にふるまえていない人が多いように感じます。大学側にも原因があるのかもしれませんが、「もっと自由にやっていいのに」と思ったりもします。昔と比べて、「無計画」やそれによる「失敗」を恐れる気持ちが強いのかもしれません。でも、計画に従っていたら予見できることしか得られません。それはつまらなくないですか?無計画や失敗から生まれることのほうが大きいこともたくさんあるはずです。

無計画とか、無鉄砲とか、やりたいとか、好きとか、そういう直情的な気持ちに、もっと素直になってもいいのではないでしょうか。それでうまくいかなくても、学生の時期は失敗としてカウントしなくてもいいと思います。心のままに「やりたいこと」を考えたほうが、人生は自由で面白くなるのではないかな、と思います。

研究室で細胞に音を聞かせて反応をみる粂田氏

音に対する細胞応答の実験では、細胞をディッシュ内で培養し、スピーカー内部の振動部分を培地に直接つけて、細胞にダイレクトに音を聞かせる。ほ乳類の筋芽細胞、上皮細胞、神経細胞などさまざまな種類の細胞を使用。聞かせる音も、「ピー」という単調な音から、ホワイトノイズのようなランダムな音までさまざまで、音の高低、大きさ、波形の違いで、どの細胞に、どのような遺伝子応答や細胞分化の変化が生じるかを調べる。

粂田氏が友人と演奏した楽曲を録音し、「上手に演奏した曲」「楽器のチューニングをバラバラにした曲」「テンポをずらした曲」などを聞かせたところ、遺伝子応答に変化がみられたという。研究の進展が期待される。

粂田 昌弘 氏

筋芽細胞は線維化して細長くなるが、音楽を聞かせることで線維化の効率に変化がみられたという

※本インタビューは「2022東大京大AtoZ」(2022年8月 SAPIX YOZEMI GROUP発行)に掲載されたものです。