Ⅱ 学習アドバイス
理科の選択について
理系の学生にとって高校の理科は、大学進学以降も直接利用する内容の下地となります。そのため、理科の科目選択は、将来の進路に直結する大事な決断となります。慎重に決めなければならない半面、早く決めて早く受験勉強を始めれば、それだけ得点力を鍛えることができます。
逆にいえば、好きな科目、興味のある科目を選んで勉強ができるわけです。そして、好きなことや興味のあることの先には、自分に合った将来の道が見つかりやすいでしょう。
ただし、地学については進学後に数学・物理・化学が必要となります。京大の地学は論述が多いので、苦手であれば地学選択に固執しなくてもよいでしょう。さて、進路は1つでも、教育学部以外では科目は2つ選ばなければなりません。科目の組み合わせ、特に物理・化学・生物について、受験戦略的に見てみましょう。
1）物理・化学
最も多い組み合わせで、工学部ではこの組み合わせが必須です。どちらも数式や数値の処理が多いので、数学が得意な受験生にとっては取り組みやすいでしょう。私立の併願や他の国公立大学の選択を考える際にも、選択肢が広いといえます。
一方、この組み合わせでは時間の使い方が重要となります。京大の物理・化学は問題量と計算量が非常に多いうえに、実際に解き始めてみないと難易度の判断がつきにくい場合もあります。
さらに、結果だけを答えさせる問題が多いため、一度手をつけた問題は最後まで解き切らないと時間の浪費となってしまいます。問題を解きつつ、先に進むか見切りをつけるかを判断する力が必要となります。
2）化学・生物
医学系志望などの生物が好きな人は、関連の深い化学を併せて選択することが多いです。生物は解答に時間がかかるため、化学で解くスピードや計算の正確さがより求められます。
京大の生物は、問題文はそこまで長くなく、大問が分割されることが多いので、文章の読解にはそこまで時間はかかりません。一方で論述が多く、字数制限がないため、論述の内容を組み立てるのに時間を要します。
一般的にも最も時間のかかる組み合わせであり、現実的には理系の中でも数学が苦手という理由で選ぶ場合が多い組み合わせなのですが、そのような後ろ向きな理由で選ぶには負担が大きいように思います。ただ、論説文のような国語が得意で、論述さえ書ければ、余程勘違いしていない限りある程度の部分点が見込めるので、物理のような崩れ方は少ない選択でもあります。慣れれば安定した得点が見込めるようになります。
3）物理・生物
生物は一見覚える量が多いように見えますが、単語以外の内容も含めて「覚える量」となると、単語・考え方・計算パターンともそれなりに量のある化学が最も多いといえます。実は化学は理系の中でも苦手な生徒が多い科目です。実際、一通りの学習に他科目より時間がかかり、最後の6年間のセンター試験及び初回の大学入学共通テストの平均点も物理・化学・生物の中では最低です。
この選択は、数学的な要素の大きい物理と国語的な要素が大きい生物を選ぶため、思考の方向性の振れ幅が大きく、非常に少数派です。しかし、京大の入試問題では物理といえども高い国語力が求められます。さらに、高得点を狙いやすい物理と、安定して得点しやすい生物のいいとこ取りが期待できます。
このように、受験だけで見ると意外にお勧めです。ただし、大学進学後、理系なら化学は否が応でも関わることになるので、高校レベルの基礎が無いと非常に苦労します。
解答欄について
京大の理科の解答冊子は小問ごとに枠が設定されています。また、化学の論述では字数制限があり、マス目に文字を記入する形式の問題もありますが、生物や地学の論述では字数制限がなく、行の大きさや数も決まっていません。
解答欄の大きい問題について、まず考えるべきは文字の大きさです。もちろん文字を小さくして文字数を増やすことは可能ですが、本来出題者が意図した分量からずれてしまいます。文字の大きさの目安は、単語など1行で書く解答欄の大きさです。そこに書き込むときの大きさで揃え、書く量を想定しましょう。
物理の論述問題は数式処理力を見るものが多く、数学と同様に厳密で正確な記述が必要です。またグラフ記述問題でも、傾きや軸との関係など細心の注意が必要です。
化学では計算問題において導出過程も問われる問題が毎年1問程度出題されます。どの値を変数と置き、どのような考え方を基に立式したのかを簡潔に述べるようにしましょう。論述では、字数から内容の量を予測し、論理展開がどのくらい必要かを、日頃の練習でつかんでおきましょう。
生物の長文となる論述問題では、行数を予測しましょう。解答欄の縦幅を整数で等分し、1行の解答欄よりやや狭い幅が1行分です。1行はおよそ30～40字で、大体内容が1つ収まりますので、内容のおよその量が推測できます。小さい字で字数を稼ぐと、かえって余計なことを書き、減点の対象となる危険性もあります。書くべき内容を見定め、それなりの分量に収まるよう、練習しておきましょう。
理科に向かう姿勢
京大の「京大」たる所以は、知識の習得を前提とし、それをいかに活用して未知の状況に対処するかが問われるところにあります。未知の内容を問題文から理解する力は、京大では国語と同様、理科の全科目で求められます。
この読解に知識が活用されます。この「知識」は単に単語や公式の暗記だけではなくその典型的な使い方、つまり例題の解法も含みます。これらの「知識」は知って解けるのは当然で、これを未知の状況で活用するためには、「知識」の本質部分の理解が必要です。
・この公式はどういう条件がそろえば使えるのか？
・問題から知っている形を抽出できるか？
・この仕組みは他の単元でも当てはまるのではないか？
など、基本的な内容でも様々なことを想定しながら理解していかないと太刀打ちできません。このように、「知識」には各自がどのように触れてきたかという「経験」が付随してきます。例えば、間違えた問題を見直すときに、根本の原因は何だったのかを分析し、他の問題にも通じる一般則、いわば「教訓」のようなものを得られれば、それは大きな「経験値」となるでしょう。
計算なら立式、論述なら書き始めの段階に到達するまでの思考プロセスは答えそのもの以上に大切であり、理科を学習する目的はむしろそこにあります。例えるなら、算数の文章題で、問題文が長く難解、しかも文章だけではなく図やグラフ、文字式なども「読解」し、立式していくようなものです。計算も文字式という「言語」、英語や国語と同様、思考と意思疎通の道具です。人にこれらの「言語」で解法を説明できるようになれば、採点者に自分の考え方を伝えられるようになるでしょう。
「基本が大事」とは
「基本が大事」「基本をしっかり確実に」という点は京大へ向けての学習でも同様ですが、これは「基本知識をすべて覚えればよい」「基本問題を覚えるまで繰り返し解けば受かる」ということではありません。先に述べた「本質を理解」することが目的です。
物理のように原理・原則が少ない科目ほど、深く掘り下げる必要があります。つまり、一つの公式から求まる多様な例題に触れ、その経験を統合して初見の問題に取り組む基本姿勢を体得します。
化学では、例えば問題文から立体構造を把握する、関係式からどのような現象や化学反応が進むかまで考えられなくてはなりません。
生物では、基本というと大量の単語というイメージがあるかもしれませんが、頭の中で単語が羅列されているようではその先につながりません。複数の単語をつなぎ、一つの概念、つまり物の捉え方として理解していきます。単語のネットワークが体系的な知識を作り、これでようやく次のステップへ進めるのです。
基本を疎かにはできませんが、基本だけでは問題は解けません。また人間は忘れる生き物なので、基本を「完成」させることはできません。現役の高校生という限られた時間であればなおさらです。一通り学習したら、以降は復習と演習を同時に進め、抜けている知識を埋めつつ思考力を鍛えていきましょう。
問題と向き合うことは大学と向き合うこと
京大の問題は質・量ともに重く、取り組むのに時間がかかります。普通では出題されないような考え方が要求される問題もありますが、そのような問題からは新たな知識や解法を得ることができます。難問に取り組むことにより、まずは出題者の考え方を理解し、それを自らの考えに昇華させる、「自ら学ぶ力」を求める京大の姿勢がよく表れている問題といえるでしょう。
いわゆる「良問」と呼ばれるものは、作題者である大学の先生方が、専門分野以外の単元も調べ、研鑚され、受験生へ向けてメッセージを込めて作成されています。それを堪能できるのは、過去問を小問一つ一つに至るまで腰を据えて解き、自己採点し間違いを検証するなど、問題に真摯に向き合う姿勢を深めたときです。作題者の思いを感じつつ問題を残さず味わい、その価値がわかってこそ、京大生として相応しいといえるのではないでしょうか。
様々な大学の過去問に、そのような味わっておきたい「良問」は存在しています。多くの良問に触れ、問題から多くを学ぶことは、受験にとどまらず大学生として「本質を見抜く力」と「深く考える力」を育むことになります。
