Special Interview
株式会社ジーンクエスト取締役ファウンダー
高橋 祥子 氏
2010年京都大学農学部卒業。12年東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程、15年に同博士課程を修了。在学中の13年に株式会社ジーンクエストを創業。Newsweek「世界が尊敬する日本人100」に選出されている。
著書
『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?』
『ビジネスと人生の「見え方」が一変する生命科学的思考』
日本初、個人向け大規模遺伝子解析サービスを提供
日本初となる個人向け大規模遺伝子解析サービスを提供する株式会社ジーンクエスト。高橋祥子氏は大学院在籍中にこの会社を起業している。巨人の肩に立ち、唯一を探求する道程を聞く。
学風は「京大生よ、立派な変人たれ」好きなことを探究する熱量の高さ
医師である父をはじめ研究者が多い家系で、理系に進むのは自然な流れでした。生命科学の研究者を志すようになったのは、高校生のとき。姉とともに父の職場を見学しに行ったのですが、治療を必要とするたくさんの患者さんを見て、「病気になる前に何かできないだろうか」と思ったのがきっかけです。生活習慣病の治療より、予防するメカニズムを学びたくて進路を考えました。
通っていた大阪府立北野高等学校は、京大の合格者が全国でもトップレベルで、定期試験に京大の入試を想定した問題が出るなど、京大受験に強いカリキュラムが組まれていた学校です。父も京大の卒業生で、自由でいい校風だと聞いていたので、それならばと志望しました。
受験に関して覚えているのは、なぜこんなに勉強しなくてはならないんだろうと疑問に感じたとき、父に「今頑張っておくと、将来やりたいことが見つかったときの選択肢が増えるよ」と言われたことです。後々、本当にそうだったなと感じることが何度もありました。また、「やりきったことがないのに勉強することの意味を問うのはナンセンス」とも言われて、じゃあ限界までやってみようと1日13時間勉強しました。こういう挑戦が、今自分の力になっていると実感します。
入学した京大は、「京大生よ、立派な変人たれ」という言葉があるように、好きなことを追求する熱量が高い。この言葉は、他人軸でなく自分軸で物事を考えよという意味だと私は捉えています。授業も教えてもらうというより学びにいく姿勢が当たり前。基本的には放任で自由ですが、それには責任が伴うということです。私は1、2年生の頃はあまり授業に出ず、アルバイトと、大学から始めたフィギュアスケートを謳歌していました。そして3年生になって実験を学び、4年生から研究を始めました。
研究には、自分が何かを解明するという、それまでの勉強とまったく違う喜びがありました。既に発見されたものをなぞるのが勉強なら、研究は「唯一」や「初」でなければなりません。問いをもらうのではなく、自分で考えて発見者になるわけです。私のテーマは「未病」。よく「巨人の肩に立つ」と表現されますが、先人が解明した知の蓄積をベースに新たな発見を目指しています。
学部を卒業した後は、東京大学の大学院に進学しました。京大は楽しくて居心地が良かったのですが、研究を志す学生の9割以上がそのまま京大の大学院に入るので 未来が想像できてしまい、成長できるのかと危機感を持ったのが理由です。
東大の校風は京大とはまた違っていて、どちらにも触れることができてよかったと思っています。好きなことに特化して突き詰める京大に対し、東大は好き嫌いせず真面目に取り組むオールラウンダーのイメージでしょうか。後に東大で出会った先輩と起業することになるので、あのまま京大の大学院に進んでいたら、今とは違う人生だったかもしれません。
大学時代から、研究の成果を社会に実装し、さらに研究を加速させるには事業化する必要があると考え、いずれ起業するつもりでした。ただ、まずは会社という組織を知りたいと、修士課程の時に就職活動をしたのですが、全部落ちました。まあ私が採用担当者でも選ばない学生だったと思います(笑)。企業は何かしらの役割を担ってほしくて人材を募集するわけですが、私は自分がやりたいことが先にあって、「御社ではこれを実現できますか」というスタンスだったので……。仕方がないので自分で起業することにしました。
皆さんがこれから先、就職活動で上手くいかないことがあっても、最終的にはこういう道もありますので、落ち込まなくても大丈夫ですよ。