株式会社ジーンクエスト取締役ファウンダー高橋祥子氏インタビュー

社会課題にサイエンス的なアプローチ
遺伝子解析で知る生活習慣病のリスク

株式会社ジーンクエストを起業したのは博士課程在籍中の2013年です。日本初の個人向け大規模遺伝子解析サービスであり、採取した唾液から、300項目以上の健康リスク、体質の遺伝的傾向、祖先のルーツなどがわかります。

当時は「遺伝子を調べる」ことの認知度が低く、怖いイメージを持っている人もいました。「○歳でがんで亡くなる」というような、自分で変えられない運命を宣告されるのではないか、とか。でも遺伝子解析は変えられない運命などではなく、どちらかといえばトランプの手札を開くようなものです。それでゲームが決まってしまうわけではありません。

例えば自分のお酒の強さがわかれば、適正な飲酒量をコントロールすることで食道がんのリスクを低減できます。そうした行動変容を促し、より良い人生に向かうための手段なのです。

こうした遺伝子解析は人種によっても結果に差異が表れますが、8割近くの研究が欧米の集団を対象に実施されているのが現状で、人口の多いアジア人集団の研究が今注目されています。

日本は2025年に団塊世代が後期高齢者になり、超超高齢化社会に突入しますが、遺伝子解析を加齢に伴う病の予防に活用することは、社会課題に対するサイエンス的アプローチになるでしょう。遺伝子研究は解明されていない領域が多く、今後もビジネスとの両輪で疾患と遺伝子の関係を探っていきます。

高橋 祥子 氏

また、大学には面白い研究や技術がたくさんあるのに、世間ではまったく知られていないことを、非常にもどかしく感じています。学内で研究を閉じず、事業化して社会に還元することは大学の課題であり、東大も起業バックアップを重点政策の一つにしています。これは未来の日本のためにも必要な施策です。

もう一つ、STEM人材の不足も深刻です。日本の入試制度は早くから文系・理系に分けられることで、互いの分野への苦手意識を引きずってしまいがちです。AIやロボティクスが日常生活に深く関わってきたり、mRNAを理解しなければコロナワクチンを打つかどうかの判断もできなかったり、文理の境目が曖昧になっているのが現代社会です。文理の垣根を越えた「総合知」の教育を目指す学部もできていますが、ベースが文系でも生命科学の奥深さに興味を持つ人が増えてくれたらと願っています。

受験勉強はパターン認識の力が強い側面もあり、それがあれば受験は突破できるかもしれません。でも大学で必要な思考法はまったく異なり、そこには想像以上に楽しい世界が広がっています。ぜひ、「問いを作れる人」になって、自分が面白いと思う世界を作ってください。

私は今も、新しいものに向かっているときはワクワクします。想定外のことを人生でたくさん経験したいので、選択肢があるとついつい未知の方へ行ってしまうのです。東大の大学院を選んだときと同じですね。

失敗することもありますが、それも含めてのワクワクです。「やったことがない」を一つひとつ減らしていくと、やりたいことがはっきり見えてくると思います。これから待っている大学生活が皆さんにとって、いろいろなことに挑戦する大切な時間になりますように。

※本インタビューは「2023東大京大AtoZ」(2023年7月 SAPIX YOZEMI GROUP発行)に掲載されたものです。

企業情報
会社名 株式会社ジーンクエスト
設立 2013年
事業内容 個人向け遺伝子解析サービス
本社所在地 〒108-0014 東京都港区芝五丁目29番11号 G-BASE田町
企業ホームページ https://genequest.jp