文学散歩【6】図書館焼失と芥川龍之介

芥川龍之介の憤懣

田端文士村の芥川龍之介はパンと牛乳で午餐をしていたところに揺れが来た。右往左往しながら一家は戸外に避難した。翌日は「東京の天、未だ煙に蔽われ、灰燼の、時に庭前に堕つるを見」たが、図書館の蔵書だとか、ラテン語だとかは言っていない。しかしもちろん「書物を愛する」人である、「古書の焼失を惜しむ」という一文を書いている。

個人の蔵書は兎も角も大学図書館の蔵書の焼かれたことは何んといっても大学の手落ちである。図書館の位置が火災の原因になりやすい医科大学の薬品のあるところと接近しているのもよろしくない。休日などには図書館に小使くらいしかいないのもよろしくない、そのために今度のような火災にも、どういう本が貴重かわからず、従って貴重な本を出すこともできなかったらしい。

この文を書いたときには火災の火元が薬物学教室の薬品落下による出火であるという情報は広まっていたようだ。しかし「貴重な本を出すこと」ことができた「小使」もいたことは知らなかったようだ。