京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点)拠点長 北川進教授

京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)拠点長/京都大学特別教授 北川 進 氏

京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)拠点長/京都大学特別教授
北川 進 氏

1951年京都府生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了後、近畿大学理工学部助教授、東京都立大学理学部教授などを経て、1998年から京都大学大学院工学研究科教授。2013年、京都大学アイセムス(高等研究院 物質–細胞統合システム拠点)拠点長に就任。1997年に多孔性配位高分子(PCP)の実証に成功して以来、PCPの開発を牽引してきた。

感動に至る発見を求めて私たちは先へ進んでいく

これまで研究を続けてきた多孔性配位高分子(PCP)ですが、このPCPから派生した材料には、多くの穴が開いています。その穴がガスなどの気体を分離したり、貯めたりする機能を持つのです。この機能を使えば気体からCO2(二酸化炭素)だけを分離することでCO2の削減につなげられる可能性も出てきます。PCPは、本格的な実用化のステップを迎えています。

私が研究してきたPCPは、大きく二つの流れに分けることができます。一つは基本的なところ、基礎研究ですね。新しい開拓は、大学として、アカデミアとして、当然やるべきことです。

もう一つは、研究を社会での実用化にもっていくことです。実用化に関しては、アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点)特定助教の樋口雅一さんが2015年、Atomis(アトミス)という大学発ベンチャーを起こしました。PCP材料に関連する会社なのですが、まずは貯蔵種として天然ガス、メタンの貯蔵剤へと展開することを事業としておこなっています。

この両者の違いは大きいものです。アカデミアでは、1グラムでも研究対象となります。一方で、社会で使おうとするものは最低でもキロ、トン以上です。そのうえ商品化となると、企業は、「大量に」「高品質に」なおかつ「安い価格」という戦略になります。

その違いから私たちアカデミアは、技術やサイエンスの本質的な部分については真剣に考えているんですが、実際の生産にはタッチしない。ベンチャー企業と分業することで互いのミッションがはっきりして、PCP材料が早く社会へ広がっていく体制ができてきたと思います。

いま、私自身がフォーカスしているのは空気です。 空気は、主に酸素と窒素で構成され、濃度は薄いですが二酸化炭素も含まれます。また、他にもいろんなエレメントが入っています。だから空気というのは、いわゆる“目に見えない金”、インビジブル・ゴールドだと思っているんです。しかもユビキタス、つまりどこにでもあまねくある。そういう資源をうまく使う化学を展開する必要があると考えています。そうした技術はまだまだですが、私たちが研究してきた技術を使って、大気から物質を分離する、しかも、できるだけエネルギーをかけずに分離し、原料としてもう一度提供する。そういう世界ができればいいなと考えています。それができれば、資源のない国も地熱や水や太陽光などの再生可能エネルギーを使って、どこにでもある空気を資源として活用できる。そこに貢献したいですね。

「発見」には、小さな発見も大きな発見もあります。その発見が、大きなものであれば、次は「驚き」になります。「発見」があって、「驚き」があって、その次は「感動」なんです。

たとえば数学であれば、300年も解けなかった問題を解くことができた、というと、中身はわからなくても一般の人でも感動するじゃないですか。天文学もそうですよね。新しい星が発見されると、何もわからなくても「すごい!」という感動がある。ところが自分たちが扱っている分野はなかなか「感動」にまで持っていけない。「驚き」まではあるんですが、「感動」に至る発見はなかなかないんです。

ですが、空気のようなインビジブル・ゴールド、目に見えない金からは「感動」が生まれると思うんです。これをうまく使える技術が出てきたら、「感動」になるんじゃないかなと。そういったインビジブル・ゴールドを求めて、私たちは先へ進んでいく必要があると思っています。

次のページ:勉強でも研究でも、「面白い」と思ってやるのが原動力になる »