京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点)拠点長 北川進教授

京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)拠点長/京都大学特別教授 北川 進 氏

京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点)拠点長/京都大学特別教授
北川 進 氏

1951年京都府生まれ。京都大学大学院工学研究科博士課程修了後、近畿大学理工学部助教授、東京都立大学理学部教授などを経て、1998年から京都大学大学院工学研究科教授。2013年、京都大学アイセムス(高等研究院 物質–細胞統合システム拠点)拠点長に就任。1997年に多孔性配位高分子(PCP)の実証に成功して以来、PCPの開発を牽引してきた。

あまり考えずに次々に進んでいくと宝を見逃す可能性がある

卒業後は、京都大学大学院工学研究科を経て、近畿大学に勤めました。近畿大学では、理論化学ではなく錯体化学を扱っている研究室に入り、有機分子と金属イオンが結合してできる配位高分子の研究を始めたんです。

金属イオンの中でも、私は1価の銅イオンを研究していました。1価の銅イオンには色がない。銅イオンのところに電子が全部つまっていて、電子が動けない。だから光を吸収しない。そういう意味で色がないんです。金属イオンはたいてい磁石の性質を持っているのですが、磁石の性質もない。当時、ある先生には「そんな面白くない金属イオンをやってどうすんの」と言われたこともありましたね(笑)。世の中の主流とは少し違うことを研究していたんです。

研究では、分子がつながっている構造を知るためにX線構造解析の装置を使用していました。あるとき、配位高分子の構造を解析していたら、偶然、均等な形の穴(孔)が開いている、蜂の巣の断面のような六角形の構造ができていたんです。本来は、密につながる構造で、穴ができていては失敗なのです。しかし私は、穴ができていたことに感動して、「ひょっとしたら、この穴を使うのが面白いかもしれない」とひらめいたというか、ピンときたんです。

なぜ、「穴を使う」のかというと、何かを入れることができるからです。たとえば身の回りのものでいうと、活性炭もそうですね。活性炭には、大小の無数の穴があります。そして、穴の開いた活性炭を、水が臭ってきた水道に入れると臭いがなくなり、水がキレイになるなどの使い方で活用してきたわけです。

そうした活性炭のような「穴の開いたもの」が、有機分子と金属イオンのかけ合わせでつくることができるのは面白いなと思ったんです。これがその後、研究対象となる多孔性配位高分子(PCP)を発見したときの出来事です。

これには実はオチがあるんです。いまの近畿大学は立派な設備のある大学ですが、数十年前はそうではなかった。X線構造解析の大型コンピューターがなかったため、学生をつれて京都大学に行って研究していたんです。大型コンピューターだから、計算自体は速いんですけれども、人がたくさんきてデータを入れたら、順番に処理するので時間がかかるんですよ。その処理待ちの間に、一緒に行った学生が時間をもてあまして解析途中の構造をとり出した。そのときに、穴の開いた構造を私は見ることができた。それを見て、面白いと気づけたんです。

ある意味、「近畿大学の設備が充実していたら」「スムーズにどんどん解析できていたら」、そういう発想にならなかったわけです。だから、あまり考えずに、次のこと、次のこと、と進んでいると、結局、宝を見逃している可能性がある、と私は思います。

私がこの発見に至った秘訣があるとすれば、「運・鈍・根」ですね。「運」というのは、宝くじが当たるように祈ってやってくるものではなく、いろんな意味で勉強したり、さまざまな情報を自分で努力して獲得したりしていく中で、一番いい方向に向いていくようなものです。運は自分でつくるものなんです。

また、「頭のいい人」は、すぐに流行りにのれて、しかも自分のものにできてしまいます。 ところがその流行りは、誰かが始めたことでしかない。だからいくらやっても最初の人にはならないんです。一方、「鈍な人」はすぐには飛びつかない。疑問に思ったら立ち止まる。あれこれ自分の頭で考える。そんな愚鈍さも必要です。だから「鈍」も重要なわけです。

「根」は、「根気よく」で、「あきらめないでやる」ということですね。ネバー・ギブ・アップという意味です。今から思えば、「運・鈍・根」がそろうことで、うまくいって発見につながったのかな、と思います。

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