那須野薫氏インタビュー

ものづくり×AIで日本が抱える課題を解決したい

当時、AIが社会で活用されていた事例としては、アドテック(広告×AI)やフィンテック(金融×AI)が有名です。私自身、修士課程のときに、それらの共同研究に携わったこともあります。「いつ、誰が、何を買うのか」がAIによってわかる。それがわかると売り上げが上がる。この仕組みは面白いとは思いました。しかし、よくよく考えてみると、そこでやることは「クリック予測」、つまり、いつ、誰が、どんなタイミングで何をクリックするのかを予測することです。この分野での企業を考えたとき、私にとっては、学んだことの行きつく先が「クリック予測」であることが、なんとなく腹に落ちませんでした。フィンテックもアドテックも、もちろん立派な仕事です。ただ、自分の人生の30年、40年をかけて取り組む仕事でないのではないか。私にはそういう気がしていました。

修士課程で学びながら、私は人生についていろいろと考えていました。そのときにこう思ったのです。

「最後、つまり死ぬときに『ああよかったな』と思えるような仕事に取り組んだほうがいい」と。だから、自分の長い人生をかけて仕事をするなら、自分自身が納得できるチャレンジをしたかったのです。

では、なぜ、「DeepX」を起業しようと思えたのか。これには、きっかけがあります。2015年の終わりに松尾先生に次のようなお話をうかがったことです。

日本は、この20~30年に急成長したグーグルやアマゾン、フェイスブックなどのインターネット産業にうまく入っていけませんでした。経済は成長せず、「失われた30年」ともいわれます。一方でそのインターネット領域でデータを大量に集められるようになったことと、計算資源がたくさん用意できたことで、AIの世界は劇的に進歩してきました。つまり、インターネットに強い企業がそのまま AI に強いという図式があります。

では、その領域で後れをとってしまっている日本はどうしたらいいのか。そう考えたときに、インターネット領域やAI領域単体で戦うのではなく、日本が強いとされている「ものづくり」の領域とAIをかけ合わせたらいいのではないか。そこにチャンスがあるのではないか——。

松尾先生からこのお話をうかがったとき、私はものすごく「腹落ち」したのです。日本のものづくり産業にAIを導入することで人手のかかる作業を自動化し、生産現場の課題を解決する。そして日本から世界の生産現場を革新する。それを目指し、「DeepX」を立ち上げました。

現在の日本では、あらゆる産業において働き手が不足しています。統計によれば、国全体の生産年齢人口が2040年には約2割減ることがわかっています。多くの国では出生率改善や女性の社会進出、移民等によりこの問題を解決してきましたが、日本は風土的にそうなりそうもありません。その解決策が「自動化」です。