依田高典教授インタビュー

うまくいかなくても君のせいではない、好きなことに思い切って挑戦しよう

受験生の皆さんへのアドバイス自己犠牲でなく自己を実現しつつ社会の役に立つために

——「経済学者」といえばテレビに出てくる評論家か、あるいは人の気持ちのわからない大学教授が思い浮かびがちかもしれない。しかし依田教授のように学問的に実績を積みながら、世の中との接点も持とうとする経済学者もいる。改めて、経済学とは何なのか。そして依田教授が学生に望むこととは?

経済学とは志の学問。世の中を変えなければならないのです。「経済学」の語源は2つあって、一つはギリシャ語の「オイコノミクス」、つまり「家政学」という意味です。もう一つは「経世済民の学」。まさに世の中を治め、社会を変革する学問という意味で、その根底には「人間のこころとどう向き合うのか」ということがあります。

僕が学生時代にケインズを読んで感動したのはまさにこの部分。1920年代の大恐慌の時代、当時の政治はいわゆる「小さな政府」で、経済は市場に任せるしか道がなかった。そんな時代にケインズは、「人間が不確実性を恐れて衝動を失っている中では、政府が責任をもって有効需要を創出し、失業対策をするべきだ」と、いわゆる「大きな政府」の有効性を論理的に証明したんです。

もちろん、この考え方は現代にそのままは当てはまりません。大恐慌時代と比べれば生活は格段に豊かになり、政府の穴埋めが波及効果を生まなくなっているからです。そういった背景も考慮して、現代は現代なりの方法を考えていかなければならなりません。

しかし、必ずしも経済学でなくてもいい。皆さんに自問自答していただきいのは、「自分が世の中とどう接点を持っているのか」「自分はどう役に立つのか」ということです。とはいっても、自分を犠牲にして役立とうとすれば萎縮します。皆さんには、自己実現を果たしたうえで、さらに世の中の役にも立つ方法を考えてほしい。そのためには、自分の能力が最も役に立つ専門性を、長い目で探していただきたいと思います。

最近の京都大学の学生さんを見ていて思うのは、皆さん授業に出すぎますね(笑)。

中学時代から進学校で育ち、レールを外れられない人が多いようにみえます。「自学自習だ」などと言って授業に出なかった自分の学部時代を振り返れば、そのやり方にはロスが多かったと思うし、今は反省していますが、とはいえ無批判無反省でただ授業に出ているのがいいことだとも思いません。そういう人は打たれ弱く、一回の失敗でダメになりがちです。

また僕の話を聞いて行動経済学に興味を持ってもらうのはよいですが、いきなり「行動経済学だ!」と思い過ぎるのもあまりよろしくない。専門分野というものは、好きなことをしているうちにたどりつくものだからです。

結局人生は一度きり。ぜひ好きなことを思い切りやって、後悔しないでほしい。もしそれでうまくいかなくても、それは本人のせいではありません。社会の方も本当は、失敗した人をバッシングするのではなく、ベストを尽くしたのだからいいじゃないかと言える寛容さを持つべきなのです。

今は残念ながら京都大学でも、寛容力や包容力が落ちているのを感じますし、それをもう一度取り戻すのは難しいかもしれませんが、若い人にはこのことを伝え続けていきたいですね。