2016年度 私立大学入試状況と分析

2016年度 私立大学・準大学 入試状況(一般)

2016年度 私立大学 入試状況(特別選抜)

2016年度 私立大学 入試状況分析

概況

2016年の私立大学医学科の志願者数はわずかながら増加した。一般選抜・特別選抜(推薦・AO)ともに増加しており、医学科人気は続いていると言えそうだ。

私立医学科の入試総計の年度比較 私立医学科志願者数等

ただし志願者数は伸びるべくして伸びた事情もある。東北医科薬科大学に医学部が新設されて2,458人の志願者(一般入試のみ)を集めたこと、東海大学でセンター試験利用の一般枠が設定されて916人(前期・後期合計)が志願したこと、日本大学でN方式1期が新設されて156人が志願したこと、これらを合計すると3,530人になる。

これを一般選抜合計から除けば志願者数は2%ほどの減少となる。だから、総数としては志願者増加であるが、既存29大学のうち、志願者数が増えたのは10大学(上記の東海大、日本大を含む)で、減った大学が19大学であった。

このことと、上のグラフから言えることは、2014年以来、私立医学科志願者数は横バイの状況になっているということだろう。入学定員の漸増は続いており、今回は7大学で18人の増員、先述の東北医科薬科大学も含めると、118人の定員増だった。そのため合格者数も増え、実質倍率は低下した。

志願者が増加した大学

100名以上の志願者増となった大学(一般選抜)

私立大学医学科の出願動向に大きな影響を及ぼすものは、入試科目、入試日程、前年倍率、そして学費である。

2016年入試で志願者が最も増えたのは東海大学。すでに述べたようにセンター試験利用の一般枠募集を始めたためであるが、センター試験を利用しない一般入試でも189人の増加となっている。英語の配点が下がったこと、日本医科大学との試験日重複がなくなったことなどによるだろう。

藤田保健衛生大学は一般前期が近畿大などとの日程がずれたこともあるが、学費減額を行い、初年度納入額が約930万円→約750万円に下がったことによるところが大きい。同大は2017年度も学費減額を行い6年間合計額が2,980万円となる(諸会費は含まない)。また愛知医科大学も2017年に学費低減を行う。

日本大学は医学科の1日の試験としては全大学中最多の志願者を集めていたが、別日のN方式1期を新たに始めて更に志願者数を伸ばした。

2016年の出願傾向のひとつは、比較的易しいとされる医学科の一般入試の願者が増えたことである。埼玉医科大学、岩手医科大学、金沢医科大学などである。これらは、新設の東北医科薬科大学との併願もしやすい試験日程であり、志願者を奪われるということもなかったようだ。

志願者が減少した大学

100名以上の志願者減となった大学(一般選抜)

「概況」で述べたように、私立医学科の志願者は横バイ期になっている。こうした時期には各大学は特別な理由がない限りは、志願者数を伸ばし続けるわけにはいかない。連続して増加してきた、前年に大きく志願者が増えて難化したなどのことがあれば志願者は減少しやすい。

今回志願者が最も大きく減った関西医科大学は5年連続で志願者を増やしていた。特に2013年の学費値下げとセンター試験利用開始、2014年の後期募集開始で大幅増となり、さらに2015年入試では、藤田保健衛生大学、近畿大学、川崎医科大学の3医学科が同日試験日になり、これとは異なる試験日の関西医科大学が志願者増となった。こうして志願者数は5年間で2.7倍に増えていた。

獨協医科大学は5年連続、北里大学は4年連続、東邦大学は3年連続の志願者増加が続いていて、2016年には減少となった。

帝京大学は2014年に学費値下げがあって志願者増となったが、反動で2015年には減少、今回は入試科目の変更で更に志願者は減った。かつての帝京大学医学科は一般入試・センター試験利用ともに自由に3科目選択だったが、2016年は英語必須+他に2科目選択となった。同時に学費の再値下げもあり、志願者の減少率は小幅であった。

私立医学科の一般入試科目はほとんどが「英・数・理2」型であり、医学科志望者はこの型で受験準備をしているのだから、科目選択幅が狭まることのマイナス影響は限定的であった。なお、帝京大学の2017年入試は1次試験・2次試験のある、一般的な入試日程に変わる。この変化により、面接が今までよりも時間を掛けたものになると予想される。また学力試験日は2月初頭から、1月下旬の「激戦区」に移動するので、この影響は小さくないだろう。

医学科新設の影響

医学科一般選抜合格者総数の変化

2016年は35年ぶりに医学科が新設された。東日本大震災復興支援のために特別に新設が認められた東北医科薬科大学医学部医学科(仙台市)の特徴は、大規模な「修学資金」である。宮城県をはじめとする東北6県の地域医療に貢献することを条件に、55名に修学資金が支給される。

A方式の場合は6年間総額で3,000万円の支給であるから、学費負担は400万円で済むことになる。志願者は2,458人、合格者は297人、実質倍率7.7倍だったが、この医学科新設は他大学の入試状況に影響を及ぼすのかが注目された。志願者数と合格者数についてみてみよう。

志願者数については、隣県の岩手医科大学の志願者は減っていない。東北医科薬科大学と同じ試験日(2月1日)の日本医科大学、久留米大学では志願者は微減だった。

東北医科薬科大学の正規合格100人の出身高校は北海道4、東北37、関東36、その他地域23であった。関東が3割以上、中部以西も2割以上であるから、遠隔地域だからといって影響がなかったとは言えない。日本大学のN方式1期の志願者が156人と少なめだったことも、2月1日試験という日程重複の影響を見ることもできよう。

自治医科大学の都道府県別の志願者では宮城県からの志願者が、50→33人と急減しているのは東北医科薬科大学新設の影響だろう。ただし、東北の他の5県の志願者は大きく変化していないので、宮城県だけの局地的現象だったようだ。

合格者数については、繰上げ合格まで含めた「総数」を公表しない大学があるため医学科全体データは出ない。「総数」がわかる大学だけの合格者数変化を右表にまとめた。岩手医科大学と獨協医科大学の合格者増加は、東北医科薬科大学とのダブル合格がいたためと思われる。両大学ともに繰り上げ合格者が増え実質倍率が低下したのでいくらかは易化したと思われる。

なお、北里大学の合格者数の減は繰り上げ合格者が減ったためである。志願者は大きく減ったがその分、競合大学との併願割合が減って合格者の歩留まりがよかったのである。また、入試日程を遅らせたので、2次試験実施の段階でもう順天堂大学の最終合格が発表されていた。順天堂大学とのダブル合格はかなり減ったのではないだろうか。

近畿大学の合格者も大きく減っている。これは、センター試験利用の前期・中期の選考方法を変えたためである。それまではセンター試験成績だけで合格者を発表していたが、2016年はセンター試験によ
る第1次選抜ののち、面接を行って最終合格者を発表するという形式に変わった。そのため合格発表数は大きく減ったのである。

2017年は国際医療福祉大学の医学部医学科が国家戦略特区の特例により、千葉県成田市に新設される予定だ。一般入試で100人、センター試験利用で20人を募集する。この医学科の特徴は、英語で医学を学び、海外で臨床実習を行うというカリキュラムと、6年間総額1,850万円という、私立医学科として最も低い学費である。試験日の設定によっては、周辺他大学の入試状況に大きな影響が出るだろう。